行政機関における統計家のポジションを確立したい

西内啓(にしうち・ひろむ) 東京大学医学部卒(生物統計学専攻)。東京大学大学院医学系研究科医療コミュニケーション学分野助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長、ダナファーバー/ハーバードがん研究センター客員研究員を経て、2014年11月より株式会社データビークルを創業。自身のノウハウを活かしたデータ分析ツールの開発とコンサルティングに従事する。著書に『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)、『1億人のための統計解析』(日経BP社)などがある。

西内 学校教育での統計教育の話が出ましたが、総務省の統計研修所では、かなり昔から統計教育を行なってきたんですよね?

須江 そうですね。第1回の国勢調査が実施された翌年の1921年に、統計専門職員の育成を行なうために設置された機関です。日本の近代化を支えた統計情報基盤を担う人材を94年にわたり育成してきました。そして、今では地方を含むすべての行政部門の職員に対して、統計の作成や利用に必要な理論、分析手法についての研修を行なっています。この研修では、統計実務の担当者だけでなく、企画部門の担当者などにも意識を変えるきっかけになってほしいと思っているんです。合理性を追求するのは、企業だけの問題でなく、行政機関の問題でもありますから。

西内 そうですね。

須江 できれば今後、行政機関における統計家のポジションを、ちゃんと確立していきたいと思っています。統計力をもって国家や地域に貢献するんだ、という思いのある人を、たくさん育てたい。そこで、17日に始まるデータサイエンス・オンライン講座の手法を統計研修にも取り入れて、より多くの人に受けてもらえる体制がつくれないか、といま考えているところです。

西内 そういう志を持った方が、省庁の中にいらっしゃるというのはそれだけですごい価値だと思います。

須江 “統計家”なんて仰々しいという人もいますが、それくらい言わないとダメだと思っているんです。だって、アメリカと比べたら、教育や医療でも改良の余地はまだまだありますから。アメリカのスタンダードだと、警察署にだって統計家がいるんだぞ、と。

西内 犯罪防止は、いまアメリカのデータ分析でも熱いトピックですよね。

須江 そういう、今まで統計と縁遠そうに見えたところにも、統計の知識を普及して、もっと業務を効率化するにはどうしたらいいのか考えるきっかけを提供したいんです。統計のポテンシャルは、我々自身もまだ気がついていないところがあって。西内先生の『統計学が最強の学問である』を読んで、改めて啓発されて「やっぱり統計ってすごいよね!」と再確認したところもあるんですね(笑)。

西内 それはうれしいですね。統計学はまだまだ使える分野で使われていないと私も感じています。何も難しい分析の知識を身につける必要はなくて、エクセルのレベルでやれることもたくさんあります。データを使うと何がわかるのか見えてくれば、普段の業務に対する意識も変わってくるでしょうね。

須江 しかも、今はコンピュータをみんな当たり前のように使うようになったじゃないですか。ちょっと前までは、エクセルはもちろん、メールすら使えない人がたくさんいました。やっぱりどんどん社会も変わっているので、統計知識の活用も社会の変化に合わせて進んでいくと思うんです。