平塚漁港の様子。直売会には多くの市民が押し寄せる

 四季折々1300種類もの多彩な魚が確認され、国内でも有数な海洋生物の宝庫といわれる相模湾。そのほぼ中央に位置する神奈川県平塚市・平塚漁港では、黒潮の流れを受ける豊饒な漁場で育まれた海の幸が水揚げされる。

 平塚の漁業の歴史は古く、16世紀半ばには組織的な漁業がおこなわれ、その港は江戸時代には江戸近郊と相模川流域の物流の拠点として栄えた。現在は、サバ・イワシ・アジなどを対象とした定置網漁業、シラス船曳網漁業を中心に、ヒラメ、イセエビを獲る刺し網などが盛んだ。

 ……と、初めて知った。

「そうなんですよね……」

 ため息をつくのは、平塚市漁業協同組合の伏黒哲司さん。

「残念なことに平塚市民ですら、知らない人が多いんです」

 昨今、消費者の魚離れが進んでいるが、平塚でもそれはご多分にもれず。しかも地元で美味しい魚の水揚げがあるにもかかわらず、漁港があることさえ知らないひとが多いのだという。

地元の人から衝撃的な声
「平塚で魚獲れるの?」「港あるの?」

平塚市漁業協同組合の伏黒哲司さん。休日も平塚の魚のPRに奔走する

 じつは伏黒さんは、富山県山間部の出身だ。海とは無縁の環境で育ち、大学進学をきっかけに平塚に住むことになった。大学時代はライフセーバーとして、日々ビーチへ通い、縁あって漁協に就職。この町で結婚して居も構え、たくさんの友達にも恵まれた。いまや「平塚はお世話になった大好きな町」だ。

 その町で、これまで馴染みがなかった魚とも親しみ、その味わいを享受するようになった。しかし他県出身の自分が「美味しく楽しい魚ライフ」を送っているのに、伏黒さんの耳に地元の人々から入ってくるのはこんな言葉の連続だった。

「平塚で魚が獲れるの?」「港があるの?」「漁協があるの?」

 そんな発言を聞くたび「もっと市民のみなさんに平塚の魚を知って、楽しんでもらいたい」と伏黒さんは思っていた。雨の日も風の日も、夜中1時過ぎには出船し、東の空が白み始めるころ平塚の港に戻って頑張っている漁師のみんなの思いを伝えたい。

 漁協においても、魚価が低迷するなか、その向上は大きな課題だ。少しでも地場の魚の価値を知ってもらい、消費を促進したい。

「朝獲れた新鮮な魚が、簡単に手に入る環境は当たり前のように思えるけれど、じつはとてもすごいこと。せっかく漁港のある街に住んでいるのだから、獲れたての魚をたくさん食べてもらって地元=『漁港がある街』のイメージが定着してほしい。魚をとおして平塚に住む幸せを知ってもらえたら」(伏黒さん)