火加減が難しい直火釜で
職人の技と目が光る

 遠忠食品の本社は日本橋だが、工場は越谷にある。1971年に建てられた工場で、水産庁長官賞をとった海苔の佃煮の製造工程を見学した。『江戸前でぃ!生のり佃煮』の製造工程を見せていただく。

「普通は原料に干し海苔を使うことが多いんです。でも、うちは生のりでやってます。漁師さんはこれを自分の工場で寿司とかに使う板海苔にするの。その前にうちが使う分を抜いてもらっているわけね」

醤油の香ばしさが漂う。「いい醤油を使わないとやっぱり駄目」とは宮島社長の談

 海苔は塩水で洗浄され、ザルにあがっている。鍋の調味料も本物ぞろいだ。醤油は近藤醸造の国内産丸大豆醤油、鹿児島県産の粗糖、国産のさつまいもを原料とした麦芽水飴、それに原材料表記で発酵調味料となっているのは『味の母』という商品だ。料理好きな人に愛用者も多く、高級スーパーなどで売られているから、見かけたことのある人も多いだろう。

「直火釜がうちの特徴。今は蒸気釜を使っているところが多いよね」

 蒸気釜というのは工場で多く使われているが、蒸気を熱源として加熱する鍋だ。鍋全体の温度が均一であることが特徴で、焦げづらいのがメリットである。直火釜というのは家庭のガスコンロと原理的には同じで炎で鍋を加熱する。そのため温度管理が難しい。

──どれくらい加熱するんですか?

「大体、2時間くらい。でも、海苔の状態によって変わる」

直火釜の下は組まれたレンガだ

 2つの鍋に火をかけ、海苔を投入する。海苔は洗浄する過程で水の含み具合などで、柔らかさに違いが出てくる。1つの大きな釜でつくるのではなく、2つの釜でつくるのは同じ原材料の海苔でも煮上がりが異なるからだ。

 香ばしさが利点の直火釜だが、反面目が離せないということもでもある。焦げるリスクと隣り合わせだ。そのため、職人は釜に付きっきりである。

 海苔の佃煮のいい香りが工場内に漂う。日本人なら炊きたてのご飯が欲しくなる香りだ。

「こういう伝統的な方法は残していくべきだと思うよね。俺らがやらなくなったらもうやる人もいないと思うんで。直火と蒸気釜では対流が違う。直火だと側面に触れるようにして回るから、醤油の香りが素材にのる。ただやっぱり難しいから職人の育成が課題になる。今の職人は前任者の下に5年張り付かせて、体で覚えてもらった。前の職人に太鼓判を押してもらったけど。後は目利きね」