ペットの医療過誤訴訟が急増している。最近では数百万円単位の賠償金が認められる事例も出始めた。医療過誤が続発する背景には、獣医師のスキル不足やチェック機能の形骸化といった業界固有の構造的問題が深く横たわっている。いまや「家族の一員」として遇されているペットをきちんとケアする体制整備は、遅々として進まない。獣医師たちは戦々恐々だ。
「検査なしで全身麻酔され、急性腎不全に陥った飼いネコが死んでしまった。病院を訴えたいので、弁護士を紹介してほしい」
「メスのハムスターを入院させたら、戻ってきたのはまったく別のオスだった。うちのハムスターは手術の失敗で殺されたに違いない」
東京都多摩市でペットの医療過誤問題に取り組む「多摩センター動物被害者の会」には、被害に遭った飼い主から連日のようにこんな悲痛なメールが舞い込むという。
被害者の会がヤリ玉に挙げているのは、「高額な医療費をふんだくったあげく、ズサンな治療でペットを死なせてしまう」と悪評の高い多摩センター動物病院。 同病院の鳥吉英伸院長は、昨年3月、5人の飼い主から訴えられた医療過誤訴訟で敗訴し、計320万円の賠償支払いを命じられたにもかかわらず、堂々と営業を続けていた。そればかりか、10月末にはイヌを連れ戻しに来た飼い主への暴行容疑で逮捕されたという御仁だ(今年3月下旬頃に釈放され、診療を再開)。
実は、こんな獣医師がいまや少なくないというから驚きだ。獣医師が飼い主に訴えられるケースは急増しており、動物医療をめぐるトラブルは社会問題化していると言ってもおおげさではない。
ペットの医療過誤訴訟が本格的に増え始めたのは、2004年以降のこと。糖尿病のイヌにインシュリン治療を施さなかったとして獣医師が訴えられた「真依子ちゃん事件」がきっかけだ。その後、メディアに報道されないものも含めれば「訴訟は毎年倍々ペースで増加している」(法曹界関係者)と言われており、最近では高額の賠償金や慰謝料が認められる事例も多くなった。