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 3月28日、アメリカで行われた陸上競技会・テキサスリレーの男子100メートルで、桐生祥秀(19)が9秒87という驚異的なタイムをたたき出して優勝した。史上初めて日本人選手が電気計時で10秒の壁を破ったのだ。

 ただ、ニュースでは取り上げられたものの、あまり大きな話題にはならなかった。やはり3.3メートルの追い風が吹くなかのレースで記録が公認されなかったこと(公認されるのは追い風2.0メートルまで)が大きいだろう。また、アメリカのローカル大会だったことや日本に一報が入った当日は広島カープ・黒田博樹の凱旋登板や世界フィギュアの羽生結弦出場など他のスポーツの話題が豊富だったこともあって桐生の快挙も価値が軽減されてしまった感じだ。

強い追い風はかえって走りづらい
抑えた選手たちも錚々たるメンバー

 しかし、とんでもなくすごいことを桐生がやってのけたことは確かである。短距離の専門家に聞くと、「強い追い風が吹いている場合、バランスを崩しやすく、かえって走りづらい。この条件で9秒87のタイムを出しているのなら、無風に近い状態でも10秒を切れているはずだ」というのだ。

 同じレースを走り桐生に敗れた選手もすごい面々が揃っている。9秒89のタイムで2位に入ったライアン・ベイリーはロンドン五輪のアメリカ代表で、100メートルでは決勝に進出し9秒88のタイムで5位、4×100mリレーではアンカーを務め、ジャマイカに次いで2位に入った。五輪短距離の銀メダリストなのだ。

 9秒91のタイムで3位のチャールズ・シルモン(アメリカ)は2010年ジュニア世界選手権100メートルの銀メダリストで、2013年の世界陸上では4×100mの1走を務め、やはり銀メダルを獲得している。9秒96のタイムで3位に入ったマーク・ジェルクスは2007年に大阪で開催された世界陸上のアメリカ代表。ダッシュのスペシャリストで60メートルでは全米チャンピオンになったこともある。現在はナイジェリアに国籍を変えて活躍中だ。

 この3人はすでに10秒を切る自己記録を持っている。ベイリーが9秒88、シルモンが9秒98、ジェルクスが9秒99だ。これまでも多くの日本人スプリンターが世界に挑んできたが、このクラスに入ると、まったく歯が立たなかった。日本選手は俊敏でスタートが速いから前半はリードすることがある。が、50メートルを過ぎたあたりで外国人選手がグングン加速し、ゴールでは数メートル離されて終わる。今回、同レースを走り、10秒15のタイムで7位に入った山県亮太のように。