2人の親がいても、育児は難事業。ひとり親家庭には、育児という難事業を一人で行う困難がある。さらにシングルマザーに対しては、女性ゆえの不利や困難が加わりやすい。

今回は、生活保護より幅広く利用されている児童扶養手当を中心に、シングルマザーの置かれている状況を大づかみに見てみたい。どのようなシングルマザーがいて、どのような経済的支援を利用しているのだろうか?

シングルマザーが支える
母子の「暮らし」とは?

シングルマザーの実態は実に様々だ Photo:milatas-Fotolia.com

「子どもの貧困問題との関連で、『シングルマザーは、こんなに大変で悲惨』というトーンの報道、あるいは支援者からの訴えが増えています。シングルマザーの困窮はひどくなっていますが、そうかといって、全てのシングルマザーがそういう目で見られたいと思っているわけではありません」

 赤石千衣子さん(「NPO法人 しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長)は、「性差別に抑圧され続け、貧困状態にある母親と子ども」というイメージに傾きがちな私に、にこやかにクギを刺す。

「私たちのところ、『しんぐるまざあず・ふぉーらむ』に来るお母さんたちの状況は、本当にさまざまです。子どもさんの数と年齢、職業、収入、学歴、DV被害に遭ったことがあるかどうか……など。私たちは当事者の団体なので、『生活困窮者支援』を前面に出している支援団体に相談に行くシングルマザーの方々に比べれば、平均年収は高いです」(赤石さん)

 1980年代初頭、自身もシングルマザーである赤石さんが設立した「しんぐるまざあず・ふぉーらむ(以下、ふぉーらむ)」は、2003年にNPO法人格も取得。調査研究・政策提言などを行う一方、電話相談・直接支援・交流会・相談会・支援者育成・親子の旅行など、さまざまな直接・間接の支援活動を展開している。

 約400人の会員は、多数のシングルマザー・若干のシングルファザー・支援や応援を行う賛助会員から成っている。シングルマザーたちの背景は、ひとり親になった経緯だけでも、離婚・非婚・未婚・死別とさまざまだ。

赤石千衣子(あかいし・ちえこ)氏。「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長。1955年東京生まれ。非婚のシングルマザーとなり、シングルマザーの当事者団体活動に参加。婚外子差別廃止・夫婦別姓選択制などを求める民法改正活動、反貧困活動に関わる。シングルマザーとして生活保護を利用した経験も持つ。著書は『ひとり親家庭』(2014 年 4 月刊行、岩波新書)など。

「ふぉーらむ」の事務所は東京にあるため、会員の居住地も活動も、関東が中心になりやすい。しかし、年4回発行される会報とインターネット上の交流の場がある他、北海道・岩手・福島・関西・出雲・松山・福岡・沖縄に姉妹団体がある。

 2015年3月10日、「ふぉーらむ」と姉妹団体の全国的な連携により、「子どもの育ちを保障し居場所を広げる支援を求める声明」が発せられた。

「(川崎中1殺害事件の被害者)上村遼太くんのお母さんの『遼太が学校に行くよりも前に私が出勤しなければならず、また、遅い時間に帰宅するので、遼太が日中、何をしているのか十分に把握することができていませんでした』『今思えば、遼太は、私や家族に心配や迷惑をかけまいと、必死に平静を装っていたのだと思います』という言葉は、多くのひとり親家庭の親と子が置かれている状況を伝えており、私たち母子家庭の親として、いつ私たち親子に起こってもおかしくない事件だと感じ、胸が張り裂ける思いです」

 という書き出しで始まるこの声明は、子どもの貧困・ひとり親家庭の貧困・母子家庭の貧困をデータによって示し、ついで、

「子どもの貧困対策推進の大綱では、保護者の就労支援として、「家庭で家族が接する時間を確保する。また、貧困の状態が社会的孤立を深刻化させることのないよう配慮する」とありますが、実効的な施策は不十分です」

 と、政府施策の不備を指摘する。