2015年2月、川崎市で発生した中学1年男子殺害事件で犠牲となった少年の母親は、朝から夜まで働き続けて子どもたちを養育するシングルマザーであった。この事件をきっかけとして、シングルマザーと子どもたちの苦境に注目が集まり始めている。

子どもたちと過ごす時間も確保できないほど働き続けるシングルマザーたちを自己責任と責め、あるいは美談として賞賛するとき、見落とされているものがある。シングルマザーと子どもたちの心身の健康だ。

健康への配慮を欠いた就労支援は、どのような結果へと結びつくのだろうか?

平均年収はわずか181万円
シングルマザーの厳しい就労状況

徳丸ゆき子さん(大阪子どもの貧困アクショングループ(CPAO)代表)。事務所の庭で遊ぶ子どもたちを見る目が優しい
Photo by Yoshiko Miwa

「今、シングルマザーに対しては、とにかく『経済的に自立しましょう』ということで、彼女たちや、彼女たちのもとに暮らす子どもたちの状況を考慮しないような『自立支援』が行われています。『自立支援』イコール『就労支援』、なんです」

 シングルマザーに対する支援の現状は、充分ではないことは間違いない。それでは、どこが特に手薄なのだろうか? そう質問した私に向かって、大阪子どもの貧困アクショングループ(CPAO)代表・徳丸ゆき子氏は、難しい表情で語り始めた。

「でも、シングルマザーたちはもともと、働きに働いているんです。81%が働いています」(徳丸さん)

 夫がいても大変な育児と職業生活の両立を、一人で果たしている。

「でも、問題は働き方と収入です。就労しているシングルマザーの約39%が正社員、約52%が派遣とパート・アルバイトなんです。そういう非正規雇用のシングルマザーの約80%は、養育費ももらっていない中、ダブルワーク・トリプルワークで、家計を一身に担っています」(徳丸さん)

 シングルマザーの典型は、人数で見れば「働いているお母さん」。それも、「低賃金の非正規雇用を掛け持ちして、必死で子どもたちを養っているお母さん」ということになりそうだ。

 シングルマザー自身の就労収入は、年間平均で181万円。単身でも「ワーキング・プア」に分類される収入で、子どもたちと自分を養っている。児童扶養手当・もと夫からの養育費・親からの仕送り・生活保護を利用しつつも就労している場合には生活保護費などを加えると、シングルマザー自身の収入は平均223万円となる。平均3.4人となる世帯全体で見ると、収入の平均は291万円。2人か3人の子どもがおり、うち1人は高校生にあたる年齢でアルバイトもしているとすれば、不自然さを感じる状況ではない。しかし、子どもの高等教育が可能なのかどうか、懸念されてしまう収入レベルだ。

 ちなみに父子世帯の場合、就労している父親は91%、うち正社員が67%。父親自身の平均収入は360万円、その他の収入を加えると380万円、世帯全体の収入は455万円。世帯人数は平均3.8人なので、母子世帯より子どもの人数はやや多い。しかし、それを考慮しても、母子世帯よりは収入面では条件が良さそうだ。