主要先進国の需要飽和と新興国市場・産業の台頭、そして環境・安全投資負担の急拡大と、世界の自動車産業は今、100年来の大構造転換期にある。現状もっとも高い競争力を持つ日本の自動車産業も、自己変革を怠れば、あっという間に「負け組」に転落しかねない微妙な時期だ。こうした中、経済産業省の主唱のもと、産学官の錚々たる顔ぶれがメンバーとして加わったオールジャパンの「次世代自動車戦略研究会」が発足したことは高く評価できる。だが、公開情報を見る限り、議論の前提が果たして正しいのか不安を覚えた。そこで今回は、日本ではあまり使われない手法だが、欧米のメディアでは頻繁に行われている“オープンレター(公開状)”の形式で、筆者の提案を伝えたいと思う。同会議の事実上のまとめ役である経産省の増子輝彦副大臣に宛てる。
(ジャーナリスト・桃田建史)
オープンレター(公開状)
経済産業省・増子輝彦副大臣殿
世界自動車産業界は今、中国をキーファクターとした空前の変革期の真っ只中にあります。にもかかわらず、日の丸自動車産業界の決断力は、弱い。このままでは、第二次世界大戦後、日本の高度成長を下支えしてきた自動車産業界が、空中分解してしまうのではないか――。国内外の自動車産業への取材を通じて、年々そのような不安を募らせていた私にとって、経済産業省・製造産業局を主体として、産学官の錚々たる顔ぶれがメンバーに加わった「次世代自動車戦略研究会」が発足したことは、久々に目の前が明るくなるニュースでした。
大手新聞系ウエブサイトの報道で、2009年11月4日(水)8:00~9:30、ホテル・ルポール麹町(東京都千代田区平河町)にて、第1回会合が開催されたことも知りました。
同研究会のメンバーは、青木哲(本田技研工業株式会社代表取締役会長/社団法人日本自動車工業会会長)、天野洋一(社団法人日本自動車販売協会連合会会長)、石谷久(東京大学名誉教授)、井巻久一(マツダ株式会社代表取締役会長)、小久見善八(京都大学産官学連携センター特任教授)、志賀俊之(日産自動車株式会社代表取締役最高執行責任者)、白井芳夫(日野自動車株式会社代表取締役社長)、鈴木修(スズキ株式会社代表取締役会長兼社長)、天坊昭彦(石油連盟会長)、信元久隆(社団法人日本自動車部品工業会会長)、本間充(社団法人電池工業会会長)、益子修(三菱自動車工業株式会社代表取締役社長)、森詳介(電気事業連合会会長)、渡辺捷昭 (トヨタ自動車株式会社代表取締役副会長)、(50音順、敬称略)と、まさに日本の次世代自動車産業の指南役にふさわしい方々ばかりです。
こうした研究会がこの時期に発足したことは、率直に言って、とても心強く思います。
研究会第1回の内容について、11月4日(火)付の日本経済新聞系ウエブサイトは、研究会後の記者会見で増子副大臣が「日本が克服すべき課題について、オールジャパンで取り組んでいく」と述べたと報じています。また、同日付のフジサンケイのウエブサイトなどでは、各委員のコメントが紹介され、今後については、全体の戦略、電池、インフラ整備の3つのワーキンググループが設置されたと報じられています。
しかし、本レター執筆時点では、経済産業省ホームページには第1回議事要旨が公開されていません。また、同研究会(第1回)配布資料の資料1議事次第に記載の資料6「討議すべき論点(案)」は未公開です。
そこで、11月6日(木)9:30(日本時間)に私が、米テキサス州ダラス自宅から、経済産業省・製造産業局自動車課に電話で問い合せたところ、次のような回答を得ました。