世界全体で3兆ドル超の運用資産総額を持つといわれる政府系ファンド(SWF)。原油高や経常収支不均衡を背景に外貨準備が積み上がる中、特に中東や中国などの新興国のSWFの規模は膨張する一方だ。そのため、先進国内では脅威論の高まりと共に、外資規制強化の動きが強まっている。だが、元米財務次官補で、SWF分析の第一人者であるエドウィン・トゥルーマン氏は、過度な活動規制はかえって危険だと説く。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン副編集長 麻生祐司)
エドウィン・トゥルーマン 元米財務次官補/ピーターソン国際経済研究所シニアフェロー |
――中東や中国、ロシアなどの政府系ファンド(SWF)が国際金融・資本市場で存在感を増している。原油などの商品価格の上昇や、ドル買いの為替介入によって、運用資金は驚異的なペースで積み上がり、2015年には15兆ドル(1500兆円)に達するとの試算もあるほどだ。あまりの急膨張ぶりに、安全保障上の懸念から、外資規制の強化に走る国も多い。世界はこのSWF問題にどう対処すべきなのか。
総じて見て、受け入れ国側、すなわち投資される側の国々はやや過剰反応していると思う。米国などの先進工業国から新興国への世界の富の劇的な再配分は、好むと好まざるとにかかわらず、世の趨勢であり、抗うことはできない。政府系ファンドが世界の金融・資本市場の安定化に貢献していることは評価すべきであり、過度の活動規制はその流れに悪影響を与えるという意味で得策ではない。
ただ、SWFの背後に控えている投資国側の政府の意図や動機づけに対して、受け入れ国側が疑念を抱くのも理解はできる。そもそも先進国を中心に疑心暗鬼が広がるのも、新興国のSWFの多くが投資戦略や運用方針、投資内訳などに関して説明責任を十分に果たしておらず、透明性を欠いているためだ。まずこの問題点を改めなければ、受け入れ国側の懸念を払拭するのは難しい。しかし、言い換えれば、、SWFが情報開示を強化すれば、懸念の多くは拭い去れる。
――国際通貨基金(IMF)は現在、SWFのベストプラクティス(最良の慣行)を集めた行動ガイドライン作りを進めている。ただ、ガイドラインにはその名のとおり強制力がない。果たして効果があるのか。
効果があるものにしなければ、受け入れ国側だけでなく、投資国側も困ることになる。
そもそもSWFは受け入れ国側の国民に対してだけではなく、自国民に対しても説明責任を負っている。その責任を放棄することはないと信じたい。放棄はすなわち国内での反発や他国での保護主義の台頭につながる。そのデメリットは当事者が一番わかっているはずだ。
――SWF脅威論で言えば、中国投資有限責任公司(CIC)は「国家の別働隊」として批判を受けることが多い。CICの情報開示レベルについては、どのように評価しているか。