島根県西部に位置する浜田市で、山陰有数の漁獲高を誇る浜田漁港。豊かな海の幸が水揚げされていたこの漁港は、予期せぬ漁獲量の激減によって未曾有のピンチに陥った。基幹産業が水産業である浜田の町を大打撃から救うべく、誕生したのがブランドアジである「どんちっちあじ」だった。
その摩訶不思議なネーミングなどから、仲買人から猛反発を受けたものの、どんちっちアジ普及の実動部隊「専門部会」で部会長を務める裕丸漁業生産組合専務理事・渡邉祐二さんの懸命な働きかけで、ようやく地元仲買人の協力を得られるようになった。
最初はけんもほろろ…も
不思議な名前のおかげで知名度アップへ
そんな渡邉さんが次に積極的に行ったのは、東京・築地市場へ通うことだった。限られた予算の中でどんちっちアジを広めていくには、情報の発信源である東京にPRして、その結果評価を得て、シャワー方式で全国に広げていこうと考えていたからだ。
しかし、突然現れた「お客でもなんでもない」生産者に対し、築地の大卸は、けんもほろろの対応だった。
けれど「『よろしくお願いします』と何度も足を運んでいるうちに『なんだか、どんちっちが熱心にやって来るな』と、だんだん対応してくださるようになりました」(渡邉さん)
また、渡邉さんたち生産者が出向いたことは、大きな収穫につながった。
「僕たちは生産者であって、利害関係のある取引相手じゃない。だから、あえて市場の方は、いろんなことを教えてくださったたんですよ」
渡邉さんは着荷した魚の状態について話を聞き、どんなふうに改善をするべきかを他の産地の状況も含めて教わることができた。
「産地一体で、その言葉に応える努力を続けました。鮮度管理が徹底され、継続的に安定した品質の魚が届くと信頼していただき、ほかのブランドアジと同じように扱ってもらえるようになったんです」と渡邉さん。築地では、「どんちっちアジは、はずれがない」と、みるみる評価が高まっていった。
「どんちっちアジ」の名前は次第に、メディアにも登場するようになった。「不思議な名前」だったことが逆に功を奏したのだ。
「当時はグルメ番組のはしりで、いろいろ探している製作会社の方がネットで検索して『なんなんだ、この名前は』と興味をもっていだだけました」(渡邉さん)
なんだかおもしろそう、と取材に訪れるテレビ局も増えた。ついには「関あじと、どんちっちアジの対比」をテーマにした番組まで放映された。だんだん知名度もアップ。どんちっちアジは脂の乗り同様、「ノリにノリ」はじめた。