『週刊ダイヤモンド』2015年7月25日号の第1特集は、「中国・ギリシャ 本当の危機が始まった!」。中国で株式バブルが崩壊し、ギリシャでは債務危機が火を噴きました。金融市場はこの二大危機に大きく揺さぶられましたが、矢継ぎ早の株価対策で上海株暴落には一定の歯止めがかかり、欧州もギリシャへの支援再開を決定。これで危機は去ったかに見えます。本当にそうなのでしょうか。答えは否である。問題が先送りされただけで、危機再燃のマグマはたまり続けています。実は始まったばかりなのです。

 「1日で、2000万元を失った」──。これは、にわかに暴落した上海株をめぐってのある人物の発言だ。ただし、日本円にして約4億円もの大金を瞬時にして〝溶かす〟失態を演じたのは、単なる富裕層の素人投資家ではない。これまで散々、〝インサイダー情報〟で利益を得てきた、相場で負けるはずのなかった共産党の局長級幹部が、そう明かしたのだ。

 6月中旬からのたった3週間で3割も暴落した上海株のバブル崩壊。その発端について、複数の党や軍の幹部は、「米国の仕業ではないか」と一様に陰謀論を口にする。
 そんな幹部たちの狼狽ぶりは、彼らですらバブル崩壊が全くの想定外だったことを意味する。市場を巧みにコントロールしてきた中国政府の神通力も効かなくなってきたのか──。金融市場ではそんなうわさが飛び交った。

 政府の支配力に対する投資家の信頼が揺らぐ中、「政府からは株価を上げろという大号令が掛かっている」(中国当局関係者)。確かに足元では、公安当局まで投入するという、なりふり構わぬ政府の強権的な株価対策によって、株安には一定の歯止めがかかっており、危機は収束したかに見える。しかし、実情は、問題が先送りされたにすぎない。

 「中国の実体経済は想像以上に悪化していて、成長率が落ちている中で、利下げなどによって短期間で株バブルを起こした」(債券市場の関係者)。今は崩壊の余波を無理やり抑え込んではいるが、いつまた市場が制御不能に陥ってもおかしくはなく、真の中華リスクはこれから顕在化してくる可能性が高い。

 先送りといえば、ギリシャ問題も同類だ。

 国家破綻の危機にひんしながら、これ以上の緊縮策は嫌だと駄々をこねていたギリシャ。最終的にギリシャが折れる形で、ユーロ圏19カ国は7月13日、ギリシャへの金融支援の再開について、条件付きながら合意した。

 おかげで、ギリシャの破綻やユーロ離脱という最悪のシナリオは当面避けられそうだ。しかし、これもまた危機の先送りでしかない。

 というのも、ギリシャの財政は火の車で、巨額の借金を返済する余力はなきに等しく、借金を棒引きしなければ、生き残れないのは明らかなのだ。今回の支援再開で、当面の借金返済には応じられても、その先にも巨額の国債の償還が控えており、このままでは、そのたびに危機が再燃しかねないというのが実情なのである。

リスクオフの世界同時発生で
危惧される〝共震〟クライシス

 政治リスク分析の専門家集団、ユーラシア・グループを率いる国際政治学者のイアン・ブレマー氏は、この中国と欧州の危機に早くから目を付け、2015年のトップリスクに挙げて警鐘を鳴らしていた。

 そしてブレマー氏の予想通り、世界の金融市場は6月以降、この二大リスクオフ要因に翻弄され、株式市場はジェットコースターのように乱高下を繰り返してきた。

 リスクオフとは、投資家心理が悪化することで、株式や新興国通貨といったリスクの高い資産を避け、国債など相対的に安全な資産に資金を移すこと。株価の下落などを引き起こしやすいとされる。

 しかも足元では、中国やギリシャだけでなく、複数のリスクオフ要因が同時発生する〝共震〟の危険性が高まっている。「相場のテーマが目まぐるしく変わる不安定な環境が続いている」(外資系証券アナリスト)。これは、〝共震〟が発生しやすい環境ともいえる。

 実際、リスクオフを引き起こす火種は世界各地でくすぶっている。

 例えば、原油価格の急落。7月14日、イランの核協議が最終合意に至ったことで、欧米が科していた経済制裁が段階的に解除される。

 そうなれば、大産油国であるイランの石油生産が増産されるため、供給過剰感から原油価格が下落して、金融市場が混乱するリスクが指摘されている。

 欧州にはギリシャ以外にも、リスクオフの発生源となりそうな国が複数存在する。
「スペインでは、ギリシャのチプラス政権と近しく、反緊縮を掲げる左派のポデモスが政権を握る可能性がある」(岸田英樹・野村證券シニアエコノミスト)。また、イタリアでは国債の格下げリスクが不安視されている。あともう1段階引き下げられると、投資不適格となってしまい、そうなれば、国債価格は暴落しかねない。

 両国共にギリシャよりはるかに大きい経済規模であるだけに、現実となれば、世界の金融市場が、ギリシャ危機を上回る衝撃に見舞われることは間違いない。

 さらに、世界中の投資家がその行方を見守っている今年最大のリスクオフ・イベントが、米国の利上げだ。米国の政策金利が引き上げられれば、財政基盤の弱い新興国などから米国へとマネーの大逆流を引き起こすことが予想される。

 また、前述の通り、落ち着きを取り戻したかに見える中国とギリシャでも、危機のマグマはたまり続けており、混乱が再燃するリスクは高い。

 こうした危機が同時発生して、投資家心理の急激な悪化を招き、金融市場を揺るがす、大規模なリスクオフの〝共震〟が起きる。そうした暴発リスクは確実に高まっており、本当の危機はむしろ、始まったばかりといえる。

世界中でくすぶりはじめた
「リスクオフ」の火種

『週刊ダイヤモンド』2015年7月25日号の第1特集は、「中国・ギリシャ 本当の危機が始まった!」です。

 6月中旬以降、株バブルが崩壊した中国と、国家破綻の危機に直面していたギリシャに揺さぶられた世界の金融市場。足元では混乱もひとまず落ち着き、中国とギリシャで火を噴いた危機はいずれも収束したかに見えます。しかし、これは序章にすぎません。

 特集では、世界中で「リスクオフ」の火種がくすぶり始め、警戒感を強める金融市場のうごめきを探ると同時に、問題が先送りされた中国の経済的混乱とギリシャ危機の深層に迫りました。

 海外の混乱に翻弄されることの多い日本の金融市場を読み解く上でも、必読の特集です。 

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  週刊ダイヤモンド2015年7月25日号
「中国・ギリシャ本当の危機が始まった!」

 ◆序章 ギリシャ危機先送り!        欧州分裂の足音

Part1 バブル崩壊と国家破綻の
   〝共震〟危機は序章にすぎない

◆Part2 中国株バブル崩壊の衝撃
    景気回復はいばらの道

◆Part3 欧州分裂の始まりか
    出口なきギリシャ問題

◆Part4 日本企業へのインパクト
    株価・業績の先行きに影

 

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