その考え方は、駅のホームの黄色い線と似ています。実際にはもう少し先に出ても電車には当たらないが、危ないのでバッファをとり、黄色い線のかなり手前で電車を持っている、というイメージです。しかるに今回の改正案は、現に戦闘が行われていない地域であれば、弾薬の提供なども行うというもので、いわば黄色い線の内側にいて電車に当たりさえしなければいいというギリギリのレベルまで、後方支援を認めようというものです。

 実際に安保法案が成立し、現場で運用された場合、日本は憲法違反にあたる集団的自衛権の行使をやらざるを得ない可能性が、極めて高くなるかもしれません。

今回の法案では事後的な検証や
責任追及の手続きが不十分

――悩ましい問題ですね。ただ、もしも安保関連法案が成立し、現場で運用されるようになったとしても、危惧されていたような事態が起きない可能性もあります。これはもう、その場になってみないとわからないですね。

 それはそうですね。実際に集団的自衛権が行使された例は、世界を見回しても、これまでそれほど多くありません。代表的な例はベトナム戦争です。湾岸戦争も国連決議が出るまでは、集団的自衛権でやっていました。2000年代以降はアフガニスタンとの戦闘に参加した英国の例がありますが、これは集団的自衛権で正当化できるかどうか怪しいと言われています。集団的自衛権の要件が満たされるケースは、実際にはあまりないのが実情です。

 ただ、現在つくっている法案は、将来の内閣や裁判所によって、いつ違憲無効と宣言されてもおかしくないものです。最悪の場合、自衛隊の派遣中に違憲判決が出るかもしれない。これは、あまりに不安定です。

 さらに、武力行使や後方支援は、国会承認など事前手続きも重要ですが、事後的な検証も非常に重要です。イラク戦争では、武力行使の根拠となった大量破壊兵器が最後まで見つからなかった。にもかかわらず日本では、なぜ大量破壊兵器があると判断してしまったのかという検証や、その戦争を支持してしまったことに対する責任の追及が、十分になされなかった。

 今回の法案では、事後的な検証・責任追及手続きが不十分と思います。このままでは、無責任な派遣が行われてしまう危険があります。

――こうしてお話を聞くと、一口に安保法制と言っても、何が本当に必要で何がそうでないのかを、冷静に考えることが大事であることがよくわかります。やはり、今国会の最大の問題は、安保関連法案の中身以上に、議論すべきことがきちんと整理されておらず、国民に政府与党の考えがうまく伝わらなかったことと言えそうですね。

 その通りです。今回安倍首相は、根本的なところで問題提起の仕方を誤ったと思います。