“ロマンス”が色あせたスタバから
ブルーボトルに転身する従業員も

「消費者は、企業の存在意義に共感できたときに購買意欲を持つ」と言われるが、まさにスタバがその例だと言えるエピソードがある。

 筆者がスタバ店員として勤務していたとき「効率とロマンス」という理論を知った。アメリカのスターバックスの業績が振るわなかった際に、同社最高経営責任者であるハワード・シュルツ氏が大切にしていた理論だ。

 スタバにおける“ロマンス”とはホスピタリティを指し、顧客のニーズに応えたり、顧客との接点を持つことが推奨されている。従業員と顧客双方にとって居心地良い空間「サードプレイス(職場でも家庭でもない第3の場所)」を提供することを掲げているのだ。

 例えば、こんな“ロマンス”がある。東京のスタバ店舗で働いていた男性は、耳が不自由な方が来店したことがきっかけで手話の勉強を始めたそうだ。1人でも多くの人にとって居心地のよい場所にしたい、というのが彼の“ロマンス”だった。ほかにも、カップにイラストやメッセージを描いて顧客を喜ばせた人や、地域の子育て中の女性が集えるママ向けイベントを企画した人など、自分なりの“ロマンス”で顧客に愛される空間づくりを目指している。

 しかし近年、それが薄れてきているように筆者には思える。マニュアルに縛られた対応もしばしば。店内で困っている人を手伝うよりも、目の前の仕事だけに集中している店員も見かける。

 流行の最先端を追いかけるイノベーター層は、少しずつ行き先をシフトし始めている。例えば、今年、日本進出したブルーボトルコーヒーは、スタバより付加価値があると考える人も多い。筆者の知人にはスタバを辞めてブルーボトルコーヒーの店員になった人もおり、同じような転身者が少なくないそうだ。スタバのコーヒー市場での優位性はまだ続くだろうが、少しずつ構図は変わってくるのかもしれない。

 スタバの掲げる“ミッションステートメント”には「人々の心を豊かで活力あるものにするために――ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから。これからも、いつまでも。」とある。

 会社規模が大きくなるにつれ、効率化は避けられないが、現在のスタバの繁栄は各店舗が大切に育んできた“ロマンス”があってこそ。絶好調な今こそ、スターバックスは原点に立ち戻るべきではないだろうか。

(赤江龍介/Noriyuki Oka Tokyo & 早川すみれ & 5時から作家塾(R)