5年後の東京五輪開催を控え、年々増加する訪日観光客。中でも急増しているのが、アジアを中心とするイスラム圏からやって来るイスラム教徒だ。彼らをおもてなしするのはもちろん、イスラム圏の巨大市場でビジネスチャンスを得るためにも、欠かせないのがハラール対応である。我々がビジネスチャンスをつかむには、どうしたらいいのか。日本のハラールマーケットの「今」を取材した。(取材・文/池田園子、編集協力/プレスラボ)

「爆買い」どころの威力ではない?
急拡大する「ハラールマーケット」

イスラム圏からの訪日観光客が急増するなか、イスラム教の宗教的なレギュレーションに従った、安心安全な食環境づくりは急務となる

 円安の追い風と5年後に控えた東京五輪への期待感から、年々増加する外国人観光客。ひときわ存在感が強いのは中国人観光客で、「爆買い」が話題を集めている。彼らの旺盛な消費欲は、今や日本の景気を下支えする要因の1つになっていると言っても、過言ではない。

 しかし、中国人よりもさらに大きい影響力を持った外国人観光客が、足もとで急増しているのをご存じだろうか。それは、アジアを中心としたイスラム圏からやって来るイスラム教徒である。イスラム圏は人口増加や経済成長に伴い、2030年には1000兆円規模の巨大市場になると予想されている。それは「ハラールマーケット」と呼ばれている。

 日本にやって来たイスラム教徒をおもてなしするのはもちろんのこと、イスラム圏の巨大市場でビジネスチャンスを得るためにも、これからの日本にとって「ハラール対応」はことのほか重要になってくる。「ハラールマーケット」とは、どんな市場なのか。そこで我々がビジネスチャンスを掴むためには、どうしたらいいのか。日本における「ハラールマーケット」の現状を探った。

 まず、「ハラール」という言葉について。「ハラール」とは、アラビア語で「許された」という意味である。イスラム教の教義に従っていると判断される商品やサービス、特にイスラムの作法通りに調製された食品のことを指す。ハラール以外の商品やサービスは全て「ノン・ハラール」と呼ばれ、イスラム教徒は避けなければならないとされている。

 たとえば、イスラム教の規範であるイスラム法において、不浄な生き物とされる豚、精神を乱すとされるアルコールは、いずれも口にすることを一切禁止されている。豚肉や豚骨から抽出したエキスやアルコールを用いた料理、調味料などの摂取も許されていない。

 食材そのものだけではない。食材の保管や輸送、加工、調理などもイスラム教に則って処理される必要がある。食肉はイスラム教徒が解体・処理し、祈りを捧げなければならない、といった厳格なルールがあるのだ。