安保論議を「正義」の観点からみる

リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください 井上達夫著 定価:1,620円(税込)

 安倍政権がゴリ押しする安保法案、いややっぱり「戦争法案」、その必要性を説明すればするほどボロボロになっていく。もう廃案にするしかないのに。

「正義」という観点からみると、法案とそれに関する論議はどうなのか。井上達夫『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』を読んだ。

 副題に「井上達夫の法哲学入門」とあるように、著者は法哲学の第一人者。『共生の作法』や『世界正義論』などで知られる。

 この本は編集者の質問に井上が答えるというかたちになっていて、とてもわかりやすい。

 第一部「リベラルの危機」は正義という観点からリベラルとはどういう考え方なのかを語る。第二部「正義の行方」はこれまでの井上の仕事をふりかえりながら、正義とは何かを語っていく。正義論というと、日本ではロールズやサンデルが有名だが、井上は両者の学説を平易に説明した上で、容赦なく批判を浴びせる。このへんはインタビュー本だからこその面白さが出ている。正義はひとつしかないと思いがちだが、考え方によっていろいろあるのだ。

 井上達夫というと、憲法9条削除論でも知られる。護憲でもなく改憲でもなく削除だ。安全保障の問題は、憲法に固定化するのではなく、通常の政策として、民主的プロセスのなかで討議されるべきだという。

 ただし条件がある。「もし戦力を保有するという決定をしたら、徴兵制でなければいけない」と。良心的兵役拒否を認めた上で。

 これはぼくも大賛成だ。というか、徴兵制を導入しない安保論議なんて卑怯だと思う。戦争で(しかも他国の)、殺し殺されるかもしれないという過酷な任務をいまの自衛隊員にだけ負わせるのはひどい。

 ぜひとも徴兵制を。その場合、年齢も性別も問わず、全国民を平等に徴兵して欲しい。政治家だろうと例外なく。もちろんぼくも、徴兵されれば戦場に行く。

週刊朝日 2015年8月14日号