20年間トレーダーを経験した
著者ならではのエピソードが満載
『まぐれ』のおもしろさ、説得力を支えているのは、ニューヨークとロンドンで20年以上にわたるトレーダーとしての自身の経験、見聞きしたエピソードにあります。
私の同僚で歴史を軽んじていた連中はみんな華々しく吹き飛んだ。吹き飛んでいない人には今のところ出会っていない。(中略)吹き飛ぶトレーダーに特徴的なのは、自分は世界がどんなふうになっているかとてもよく知っているので、ひどい目にあう可能性はないと思い込んでいることだ。彼らがリスクをとれるのは彼らが勇敢だからではなくて、ぜんぜんわかっていないからだ。(76ページ)
サービス精神旺盛な著者は、目次の後に「各章の要約」(1~4ページ)をまとめ、さらにこの本の内容を1つの表にまとめてくれています。
『まぐれ』の重要テーマは、下の「左の列を右の列と勘違いするような状況(たいがいは悲喜劇)を検討する」(7ページ)ことであるとします。一部を抜粋しましょう。
<一般>
運 ― 能力
偶発性 ― 必然性
確率的 ― 確定的
信念、憶測 ― 知識、確信
理論 ― 現実
逸話、まぐれ― 因果、法則
予測 ― 予言
<市場でのパフォーマンス>
運がいいだけのバカ ― 能力のある投資家
生存バイアス ― 市場に打ち克つ
<金融>
ボラティリティ ― リターン
確率変数 ― 確定変数
<物理学・工学>
ノイズ ― シグナル(8ページ)
人がこのように右と左の列を取り違えるのは、「私たちが物事を批判的に考えられないからだ」とし、こう続けます。
憶測を真理だといって掲げるのが楽しいのかもしれない。私たち生まれつきそんなふうにできている。私たちの頭は確率を扱える仕組みになっていない。専門家でもそんな欠陥を抱えているし、専門家だからこそそうだということもある。
(中略)
不確実性を相手に仕事をする者として、科学者の皮をかぶったインチキセールスマンを山ほど見てきた。とくに経済の分野でごそごそやっている連中だ。ランダム性が一番わかっていない連中というのはそういうところで見つかる。 (10ページ)