8月26日から29日まで、ロシア共和国サハリン州を訪問した。今回で4回目の訪問になる。サハリン国立総合大学と立命館大学の間で包括連携協定が締結されたことに基づき(第84回)、エネルギー政策を含めた社会保障政策に関する共同研究プロジェクトを始めるための協議が目的であった。
以前この連載で紹介したように、サハリン州は、石油・天然ガス開発プロジェクトによって劇的に変化しようとしている(第90回)。石油・天然ガス輸出による増収によって、2008年度から2014年度の間に、州政府予算が約5倍に拡大した。州民の平均賃金は約20倍に急増しているのだ。
一方で、州民の生活水準はいまだに高くない。州都ユジノサハリンスクの多くの道路は古く未整備でデコボコがひどい。建物はソ連時代の、古ぼけて無機質な集合住宅だ。医療、教育、社会保障制度は未整備な部分が多い。これについてロシア政府は、強い問題意識を持っており、強力なトップダウンで改革を推進しようとしている。よく知られているように、ロシアは強力な中央集権体制で、石油・天然ガスの税収の6割は中央政府に入り、州政府が自由に使えるのは4割でしかない。だが、その自由な4割部分も約20倍に増えているので、中央政府はサハリン州独自の政策立案を強く求めているという。
ウラジーミル・プーチン大統領は、直々にサハリン州に「教育と医療の充実」を指示している。そのパフォーマンスが悪い上に、州政府の汚職事件が起こったために、今年3月にアレクサンドル・ホロシャビン州知事を更迭し、新しくアムール州知事として農業改革で大きな成果を挙げたがオレグ・ニコライヴィッチ・コジェミャコ氏をサハリン州知事に起用し、改革の実行を求めている。サハリン州では、「発展戦略2025」という州独自の長期経済成長戦略を策定していたが、コジェミャコ新知事代行は、新たに「クリル諸島発展の共同プロジェクト」を発表し、それに「北方領土」が含まれることで、日本でも話題となっている。
サハリン国立総合大学との共同研究の協議で感じた、
日本とロシアの学術研究の「文化」の違い
今回のサハリン訪問は、今後石油・天然ガス収入の増加により、劇的に変化していくであろうサハリン社会の学術的な研究をスタートさせることが目的だ。社会保障政策を専門とする同僚とともに、9月27日はサハリン国立総合大学社会学部で、翌28日はサハリン州経済開発省で、サハリン州における社会経済的な現状および課題についてのヒアリング、今後の共同研究プロジェクト計画についての意見交換を行った。
ところが、今回の訪問は、ロシアとの学術研究に対する「文化」の違いによって、思わぬ困難に直面することになった。一言でいえば、いわゆる「計画経済」の考え方に驚かされることばかりだったのだ。