「トリプル20」――。経済活動の基礎となるエネルギー政策を巡って、欧州連合(EU)が策定した長期ビジョンの通称だ。

 2020年をメドとして、90年比で見た温暖化ガスの削減率と、太陽光など再生可能エネルギーの導入比率(消費量ベース)、機器の消費電力など省エネの向上性という3つの指標で、数値目標を20%に設定したことから、そう名付けられた。

 世界の二酸化炭素(CO2)排出量の15%を占めるEUにあって、トリプル20は単なるビジョンというより、むしろ国際公約に近い性格を持つ。

 そのため、スウェーデンなど一部の国では、需要によって時間ごとの電力料金を機動的に変える「ダイナミック・プライシング」制度を導入するなど、積極的な取り組みが進んでいる。

 日本では、同制度の実証実験が北九州市など一部で始まったばかりだ。

 足元では、家電製品の相対的な省エネ性能を示すEU統一の評価基準についても見直す方針だ。性能向上によって「Aトリプルプラス」など等級が細分化され複雑になったことで、消費者にとって違いが見えにくくなったためだ。

当局の思惑に反して
低い欧州の節電意識

ヒートポンプ式暖房システムで電力を自動制御するための試験機
Photo by Masaki Nakamura

 環境負荷の低減に向けた政策が進む一方で、市民の「節電」に対する意識は、当局の思惑通りには浸透していないというのが、EU地域の実情でもある。

 省エネ性能の高い製品を購入する意識はあっても、こまめな設定温度の切り替えや電源のオン・オフといったことには、関心が薄いわけだ。

 そこには、冬場の気温が常に氷点下ながら室内では半袖で過ごし、エネルギー消費の7割前後がガスボイラーなどの暖房器具によるという、EU地域特有の事情が大きく関係している。