アイスランドの悲劇は
なぜ引き起こされたのか
つながりがいかに社会のあり様を変えていくか。その実例を広く歴史に求め、鉄道、自動車などの技術進歩が、どう社会を変えていたかが描かれています。そして08年に起こった世界金融危機。筆者は「世界経済を襲った深刻な金融危機の原因はなんだったのか。(中略)その答えは『インターネットという名の非常に緻密に張りめぐらされた情報網だった』」(61ページ)と断言します。
北欧のさらに北に位置する島国・アイスランドの悲劇がその象徴でしょう。氷海に浮かび過少結合状態にあったアイスランドは、世界とつながるインターネットに飛び付きました。そして国の主要産業を漁業から金融業に定めます。同国はEEA(欧州経済領域)に加盟することで、事実上EU(欧州連合)に統合されることになり、預金保険基金さえ設立すれば、EUのどこの国にでも銀行支店を開設できるようになりました。
人口わずか30万人、GDP100億ドル程度の小国に、その高金利を目指して外国の資金が流れ込みます。流入した資金は安易に貸し出される一方、預金の支払いに応じるため資金繰りは窮屈になります。そこで一役買ったのがインターネットバンク。新たに設立されたインターネットバンクは、英国を中心に短期間に多くの預金を集めることに成功します。預金で預金を支払う自転車操業。そこにリーマンショックという大嵐が襲うのです。
後はお定まりのコース。アイスランドに流れ込んだ投機資金は逆流を始めます。つまり、同国の通貨クローネ売りの外国通貨買いが発生し、結局、クローネは75%も暴落してしまいます。預金の支払いに応じることができず、同国の3大銀行はあえなく倒産。預金(負債)があまりにも大きく預金保険基金では賄い切れないため、アイスランドそのものも破たんの淵に立たされます。アイスランド国民も低利の借り入れと思っていた借金が、自国通貨に換算すると2倍、3倍に膨らみ、借金地獄に突き落とされてしまいます。
そもそも100年に一度の金融危機は、米国のサブプラムローン(低所得者向け住宅ローン)を組み込んだ証券化商品が、世界中にばらまかれ、それが一部デフォルトしたため、疑心暗鬼が世界市場に広まり、投げ売りされるばかりか、売買すら成立しない状況に追い込まれたことに端を発します。規制緩和と強欲とインターネットがつながることで、「思考感染」が起こり、マネーは集中豪雨的にアイスランドや証券化商品に流れ込み、そして一方的に資金を引き揚げることで大惨事を引き起こしまったのです。金融バブルの発生と崩壊は、過去に何度も繰り返されました。インターネットでつながった現代との違いは、影響を受ける人や国の数です。
では、我々はどうすべきか。「過剰結合と共存する術を覚えるべきか、それとも排除すべきか」(209ページ)と問いかけます。詳しくはぜひ本書を読んでいただきたいですが、筆者は3つの処方箋を提示します。難しいのは、結合度合いを減らせば効率が落ち、結合の度合いを上げれば事故発生の確率は高まるということ。われわれはいまだそのバランスを見出していません。原発事故のように確率は低くても、一度起こってしまうと、取り返しのつかない惨劇を生むシステムは、そもそも構築しないという選択もあります。福島第2原発事故、足もとで巻き起こっている世界の株式市場の動揺を見るにつけ、つながり過ぎた世界の危機は、なお進行中であることを痛感せざるを得ません。