「戦争は女性を破壊する」
8月30日の日曜日、雨にもかかわらず戦争法案反対のため国会前に集まった10万余の人たちに向かって、森村誠一は次のように訴えた。
「戦争は女性を破壊します。最も残酷な形で女性を破壊します。たとえば、現在、デモクラシーのシンボルのような憲法においても、女性が美しくある権利を保障するという言葉はありません。なぜ、ないか。それは当たり前のことを憲法で謳う必要はないからです。
ところが、戦況が断末魔に入った当時、日本の女性、すべての日本人、女性を含めて兵士になれという命令が出ました。その時に女性はどうされたか。まず、女性はもんぺという一番醜い衣服を着て、パーマネントをした女性は髪を刈られ、振り袖を着た女性は袖を切られました。
そういう中で女性は竹槍を与えられて、あの時、ルーズベルトやチャーチルの藁人形に竹槍で刺し貫く訓練をさせられた。私はそれを見て、大切な女性が破壊されている光景をまざまざと見て、絶対に女性にとって戦争をやってはいけない。ごく当たり前の女性にとって最も大切な権利を破壊される。安倍政権は、その女性の人生を壊そうとしています」
作家らしい着眼のスピーチだろう。森村は著名な作家でありながら、『朝日新聞』の「声」欄にも投書する。
その「声」欄に「英語助けてくれた森村誠一先生」という75歳の女性の「思い出」が載ったのは2015年6月9日だった。いまから60年ほど前のことになる。彼女は当時高校生でアメリカの女子学生と文通を始めた。しかし、よく理解できない。「文通は諦めよう」と挫折しかかった時、中学生の弟が「塾の先生にお願いしてみよう」と言い出した。
すると、その先生は嫌な顔もせずに訳してくれ、「お姉さんにがんばって文通を続けてほしいと伝えて。これからも遠慮なく持っておいで」と言ったという。
その後も何度も双方の手紙を訳してくれたこの先生が、青山学院大学生の森村だった。
彼女は森村について「学費を稼ぐため、中学生向けの英語塾を自宅で開いていた。人の痛みのわかる、器の大きい方なのだと思う。人気作家となられてからも、戦争の非人間性、平和憲法の大切さを訴える姿に敬服している」と書いている。