実行段階で障害となるのは、やはり人である。そこで役に立つのが、今回ご紹介するステークホルダー(重要関係者)分析である。ある変革を実行に移す時、その成否に関わる人物をチームで洗い出し、対策を考えるファシリテーションのツールである。変革の実行だけでなく、例えば、顧客の分析などに利用し、営業の効果性を高めることもできる応用範囲の広いツールだ。

[事例] 急成長するソフト開発会社で
権限委譲を推し進める

 技術系の社長が中心となって、7人で起業したネット系ベンチャー。その後、急速に成長し、100人規模に達してきた。これまでは、技術・営業・人事・財務のすべてを社長が掌握し、社員は言われたことを正しく実行するだけで進んできたが、さらなる発展のためには、権限委譲が必要となってきた。

 しかし、アタマでそうわかっていても実行に移すのは簡単ではない。社長の大山は、何度か権限委譲を試みたが、指示待ち体質が染みこんだ社員の行動に我慢できず、権限委譲は、組織図の上だけにとどまっていた。

 社長の依頼を受けた組織開発コンサルタントの和田は、若手社員5人とともにワークショップを重ね、組織構造を改めるだけでなく、職務分掌をつくり、必要な教育プログラムを明らかにしていった。

 最後に、「これを実行に移すうえで、何か障害なるものはありませんか?」と和田は訊いた。しばらく沈黙が続いたが、「例えば、大山社長だとか?」と水を向けると、うなずきが返ってきた。

 「では、ステークホルダー分析をやっておきましょう」和田は、プランを実行に移す際に重要な人物を書き出し、対策を考える大きな表をホワイトボードに書き出した。

◎ステークホルダー分析の例
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 参加者全員から懸念されたのは、最も権限委譲を推進したがっている大山社長自身だった。これまでも、「未熟」な社員の行動に我慢できず、組織を飛び越えて指示を出していた。それが、中間管理層が自信を持てず、成長しないことにつながっていた。その動機はあくまで事業の成長拡大なのだが、その気持ちが権限委譲を阻んでいると社員は考えていた。

 対策として、外部者である和田によるコーチングが必要ということになった。他のキーマンとして、営業部長の新荘、技術部長の高木、総務部長の蒲田が挙げられた。