中国民主化研究という観点から
押さえておくべき「3つのインプリケーション」

 1つ目に、TPPが掲げる内容と中国の改革開放・構造改革が掲げる目標は相当程度において同じ方向を向いており、かつ中国がTPPに対して“開放的な態度”を保持する限り、TPPという存在と進展は中国の健全な発展を促すであろうことである。

 TPPは、ハイスタンダード、市場開放、関税の漸進的撤廃、知的財産の保護、国有企業優遇の制限あるいは禁止、生態環境や労働環境を巡る条件改善といった内容を重要視するが、これらはまさに昨今の中国が“ニューノーマル”(新常態)や構造改革といった観点から推し進めようとしているアジェンダである。「中国政府としては、まずは上海自由貿易試験区においてTPPが掲げる目標の実践に取り組むべく、現在協議を進めている」(上海市人民政府幹部)という。

 2つ目に、米国と日本がハイスタンダードを掲げて主導するTPPが中国を戦略的に“取り込む”プロセスは、経済貿易や安全保障を含めた対外関係において、中国の拡張・膨張的姿勢を牽制するだけでなく、対内的にも市場化、法治化、そして民主化への道を切り開く契機になるであろうことである。

 その意味で、日本にとってTPPという枠組みあるいは視角を通じての中国との付き合い方は、極めてストラテジックであると言える。10月6日、基本合意を受けて、日本の安倍首相は、「基本的価値を共有する国々と相互依存関係を深め、将来的に中国もTPPに参加すれば、わが国の安全保障にとっても、アジア太平洋地域の安定にも大きく寄与し、戦略的にも非常に大きな意義がある」と述べたが、全く同感である。

 3つ目に、TPPと中国の相互発展という観点から懸念されるのが、中国国内で高まる排外的なナショナリズムである。前述においても、知識人たちの、特に米国に対する対抗心や警戒心を伴った一種のナショナリズムを紹介したが、大衆世論に至っては、「これは米国が中国に仕掛けた新しい戦争だ」、「日本は安保法案だけでなくTPPを利用して中国を侵攻しようとしている」といった極端な言論が蔓延している。

 この状況に関して、前出のワシントンDCで向き合った中国政府の幹部は、「最近は外交交渉が大衆世論に縛られるケースが増えている。TPPもその1つになり得る」と、自国の排他的なナショナリズムを懸念していた。

 仮にTPPを巡る対外関係や交渉がきっかけで狭隘なナショナリズムが蔓延り、中国社会がTPPや日米が主導するルール・システム・価値観への対抗心からより内向きになり、その過程で政策決定者が大衆世論に“ハイジャック”され、中国が本来持つイデオロギーの独自性や政治経済体制の異質性をこれまで以上に強調し、追求していくような状況になれば、TPPという産物が結果的に、中国民主化への道を遅延・停滞させてしまうジレンマ、そしてリスクをはらんでいると見るべきであろう。