環太平洋経済連携協定(TPP)は交渉に参加する12ヵ国で「大筋合意」した。ハワイでの閣僚会議が失敗し、漂流するかに見えた交渉を着地させたのはアメリカの譲歩である。無理難題を押し付けて座礁させるより、譲ってまとめるのが得策と考えた。片棒を担がされたのが日本だ。国民の関心を経済に向けたい安倍首相はオバマ大統領に従った。その結果、最終局面で踏ん張ることなくベタ降りとなった。日米とも国内政局を優先、その結末が「大筋合意」である。で、何が決まったのか。
メディアは農産品5品目や自動車の関税などを伝えている。だがそれは、A4用紙で10センチにもなるといわれるテキスト(取り決め集)のごくごく一部でしかない。各国とも国内向けに、都合のいい発表を行っている。交渉の真実は細部に宿る、といわれるがテキストは公開されていない。何が、どう決まったのか。細目が明らかにされないまま「大筋合意」だけが踊っている。
交渉で、日本は何を取り、何を失ったのか。日本経済にどれほどのプラスがあり、国民の暮らしはどうなるのか。政府は自画自賛でなく、「交渉の総括」を公明正大に示すべきだ。
未だ細部は未公表だが
政府・メディアはご祝儀ムード
大手新聞の10月6日朝刊は、ご祝儀の花輪のような記事が並んだ。朝日新聞は「TPP合意」と白抜きの大見出し。「環太平洋巨大経済圏」「不在中国どう巻き込む」と盛り上げた。各紙とも歴史的意義を謳い、あたかもTPPへの流れが決まったかのような紙面づくりだ。現状は、巨大経済圏への道半ばに過ぎないことは、後で説明する。
「TPP協定の概要(要旨)」という記事が新聞の中面に載っていたが、曖昧な表現が目立つ。内閣官房のホームページで全文が確認できる。A4用紙で36ページ。現時点で日本政府が公開した合意内容はこれがすべてだ。焦点の項目を見ると「知的財産」では、「保護と推進を図る内容になっている」とある。どのように保護・推進されるのか。医薬品は「知的財産保護を強化する制度の導入」とある。「特許期間延長制度」ができるとも書かれている。「データ保護期間は実質8年」と説明されているが、どのような場合に延長が認められるか、規定は示されていない。
合意書(テキスト)をどう読むかは「付属文書」や交渉過程で取り交わした「覚書」などで決まる。TPPの付属文書は4年間非公開、交渉過程は秘密にされる。国民や議会の目が届かない闇の世界は、強者が弱者をねじ伏せる腕っぷしの勝負になりがちだ。
協定・条約は国家間の契約で、本来は対等のはずだが、外交には力の差がある。経済協定は解釈の余地を残すことで大国が有利になる。交渉過程を秘密にするのは、強者に都合がいい。