こんにちは、鈴木寛です。
今回の内閣改造で、政権の新たなキャッチフレーズが「1億総活躍」になりました。人口減少の傾向が進んでいく中で、21世紀に入ってからの我が国の1人あたりのGDPは先進7ヵ国の下位グループに低迷し、労働生産性(=GDP/就業者数)に至っては7ヵ国で最下位の状況が続いています。
移民政策を現実的に取ることが難しい以上、女性も高齢者も頑張って行かねばならない、という大きな方向性については、私も同意します。ただ、我が国を取り巻く経済社会構造の大転換を踏まえると、全国津々浦々まで「活躍」の波を広げていくには、何が必要でしょうか。
そのトリガーとなるのは、やはり人への投資、「一人ひとりの学び」であるというのが私の考えです。この連載で、私はグローバル人材育成や高大接続などの改革を何度も取り上げて参りましたが、まさにその施策とも密接に絡んできます。文部科学省もこの2年、「地方創生」の施策として、地方大学の活性化、学生の地元定着や地域での高度人材育成に向けて本腰を入れています。「1億総活躍」のために必要な人材の底上げ、ことに地方における高度人材教育の意義について、今回は書いてみたいと思います。
バラマキだった過去の地方活性策
自活の時代は人への投資が必要
日本はこの40年、「日本列島改造論」を掲げた田中角栄政権から本格化した「地方活性化」において、ハード重視で巨額のモノ投資を行ってきました。バブル時代には、田中角栄の流れを汲む竹下政権において、全国の自治体に1億円をばらまいたこともありました。
青森県の自治体で純金のこけしが買われて全国的な話題になりましたが、しかし地域衰退の最大の理由である人口流出は止まらず、結局はリターンなき投資に終わります。地方の債務残高は200兆円、GDP比の約40%となり、単に地方の借金が膨らむだけで終わりました。金のこけしが話題になった頃、私は通産省から国土庁に出向して現場におりましたが、乾いた砂に水をまいているような手法、それも税金を使っていたことに、忸怩たる思いでした。
結局、この40年の教訓として残ったのは、ハード偏重の投資では人口減少、高齢化による街やコミュニティの衰退に歯止めがかからないということ。「人」にも投資をしなければならないことがわかりました。