津田 では、逆に「ここはお笑いとビジネスは違うな」ってことはありますか?

石井 決定的なのは「人柄」というか「キャラ」という要素ですね。
マッキンゼーとお笑いの世界ってめちゃくちゃ似ているんですけど、唯一違うのが、その人の人柄というか、心を裸にできるかどうかという点なんですよね。

大勢の人の前で感情を露わにして自然体に振る舞うのってじつは難しいんですよ。スーツ着て、ビジネスライクな感じでプレゼンするほうがよっぽど簡単なんです。

ビジネスとお笑いが異なる「唯一の」ポイント

石井 芸人の世界では、よく「見つける」という言い方をするんですけれども、自分にフィットする何か、自分を120%表現できる方法——それがネタなのか、キャラなのか、声色なのか、スタンスなのか、わからないですけど——を探す旅なんだと、ある先輩芸人に教えてもらいました。

津田久資(つだ ひさし)東京大学法学部、および、カリフォルニア大学バークレー校経営大学院(MBA)卒業。
博報堂、ボストン コンサルティング グループなどで一貫して新商品開発、ブランディングを含むマーケティング戦略の立案・実行にあたる。
現在、AUGUST-A株式会社代表として、各社のコンサルティング業務に従事。また、アカデミーヒルズや大手企業内の研修において、論理思考・戦略思考の講座を多数担当。のべ1万人以上の指導実績を持つ。
著書に、就活面接本の超定番書『ロジカル面接術』『世界一わかりやすいロジカルシンキングの授業』『出来る人ほど情報収集はしないもの!』などがある。

津田 ということは、同じネタがあったとしても、Aさんがやったらウケるけど、Bさんだと全然ウケないということは十分ありうるということだよね。

石井 そうなんですよ。そしてお笑いの場合は「代替性が低いもの」、つまり、その人がやらないと面白くないネタを見つけた人ほど、売れるんだと私は思うんですよ。
「これはこの人がやるから面白いよね。他の人じゃできないよね」というネタってあるじゃないですか。江頭2:50さんみたいな芸をナイツの塙さんがやっても、たぶん何か違いますよね。

津田 たしかにビジネスの場合は、そこまで「誰がやるか」に依存しないかもしれないね。

石井 だから、芸人って手を変え品を変えして、どんどんボールをお客さんに投げながら仮説を検証するしかないと思うんですよね。

津田 そういう意味でいうと、やっぱり何か「型」を見つけたとしても、たぶんそれに普遍性はないわけだね。

石井 ええ、どちらかというと「自分普遍を見つけるという感覚ですね。
だから、津田さんが本で書いてたとおり、「自分でつくったフレームワーク」から答えを導くことが大事で、それができた芸人が「売れる」んだと思います。

津田 フレームワークが優れているという話と、それを「誰が使うか」という話ってのは、ビジネスでも同じようなことが言えると思いますね。
たとえば、1950年代のアメ車って聞くと、どんなイメージがある?

石井 でかくて燃費が悪い……。

津田 そうだよね。でも当時、設計図を日本に持ってきて、日本人が同じ車をつくっていたらどうだったんだろう?
じつはこないだ、自動車メーカーの人にこの質問をしてみたんですよ。そうしたら、その方は「米国産よりはもっといい車ができたのは間違いない」と言っていたんだよね。

石井 設計だけじゃなくて、作り手のレベルもアウトプットに関係するということですね。