インドネシアの高速鉄道の建設計画の受注をめぐり、日本の新幹線案が中国に敗退したことは周知のとおりだ。その後、計画は着々と進み、先月16日にはインドネシアと中国の企業連合が合弁会社の設立で正式な契約調印に至った。

 中国による受注の背景には、いくつかの要素が存在した。その決定的な要素となったのが、中国側からの「インドネシアの財政負担をなくし、債務保証を求めない」という提示だった。

 ことの経緯はこうである。

中国が競争ルールを歪める限り<br />途上国開発で日本は敗北し続ける中国の高速鉄道

 この東南アジア初の高速鉄道は首都ジャカルタと西ジャワ州バンドン間150kmを結ぶもので、将来的にインドネシア第二の都市である東ジャワ州スラバヤへ延ばすという計画がある。これに、日本と中国が入札を争っていたが、今年9月3日、インドネシア政府はこの計画を白紙に戻すと宣言した。

 もともと日中は「インドネシア政府の支出がある」ことを前提に競り合っていたが、その前提がここで揺らいでしまった。そして、インドネシア政府は計画を凍結させると同時に、「高速ではなく低速に」と計画を変更させ、挙句は「政府は建設コストを負担しない」と条件を二転三転させて行ったのである。

 その後、わずか4週の間に、インドネシア政府は中国案の採用を決定してしまう。同月29日のことだ。「インドネシアの財政負担をなくし、債務保証を求めない」という中国の提案が決定的となった。

 この要求の変化をものともせずに食らいついて行ったのが中国だ。国際問題に詳しい専門家は、この間髪入れずしての提案をこう分析する。

「インドネシア政府の要求に合わせてすかさずカードを切り返したのが中国。内容の精度はさておき、中国は(上記の政府支出ありから出資なしまでの)“3枚のカード”を携えていたと見ることができる」