日本の役割は、中東で製造業を育成し、
庶民の雇用を創出して民主的体制への移行を支援すること

 ここで、日本が果たすべき役割は何だろうか。筆者は、シリアなど中東諸国に「製造業」を導入する援助をすることを提案したい。英紙Financial Timesが「産油国の石油輸出のみに依存した脆弱な経済よりも、資源小国であるためにさまざまな産業を育成した日本や韓国の経済のほうが危機に強い」と論じたことがあるが、中東諸国の脆弱性とは、石油価格の下落が石油収入・税収の激減に直結し、時には国家財政破綻に至る経済危機に直結してしまうことだ。

 また、石油・ガスなどの天然資源を中心とした産業は、資本集約型産業であり、雇用効果は製造業や軽工業に比べるとかなり低い。たとえ石油価格が上昇しても、雇用の機会が限られ、庶民の雇用拡大につながらない。むしろ貧富の差が更に広がるだけとなってしまう。従って、雇用問題解決・経済格差の是正のためには、モノカルチャー的な石油資源産業からの脱却し、労働集約型産業である製造業を育成する必要となる。

 イスラム教の産油国でそれが可能かということだが、格好の事例がある。東南アジアのインドネシアとマレーシアである。両国は、IMF等の援助を得ながら、第一次産業(石油・ガス輸出)中心の経済から第二次産業中心の産業に転換し輸出主導型経済へと変化した。改革を断行したインドネシア・スハルト政権やマレーシア・マハティール政権は開発独裁政権であった。労働集約型の製造業導入により雇用機会が拡大しており、いまだに貧富の差が大きい社会ではあるが、徐々に政治体制の民主制への移行も進んでいる。

 日本は、シリア難民支援のための資金援助を表明しているが、それ以上の関与をすべきだ。政府開発援助(ODA)やビジネス、技術提供、教育、人材育成などで、アジア諸国を援助してきた経験を活かし、日本が中東に対してできることは多いはずである(第99回)。

ロシアには「新冷戦」の雄となる軍事力・経済力はない
自由民主主義陣営はロシアに対して毅然と対応すればいい

 最後に、ロシアのシリア問題介入について触れたい。ロシアがアサド政権支援のため、IS掃討の名目で空爆を始めたことをきっかけに、ウラジーミル・プーチン大統領がシリア問題について主導権を握りつつある。これが、自由民主主義陣営にとって懸念材料であるのはいうまでもない。

 ただし、この連載で論じてきたように、ソ連・東欧共産圏の崩壊による東西冷戦終結後、ロシアは20年に渡って、自由民主主義陣営に敗北を続けてきた。かつてソ連の影響圏はベルリンまであったが、東西ドイツ合併、東欧圏の民主化でウクライナまで後退し、ようやくクリミア半島のみを取り戻して一矢報いただけ、というのが現実だ(第77回)。

 ロシアには、「新冷戦」の雄となる軍事力・経済力はない。プーチン大統領という強力なリーダーがいるから存在感があるように見えているだけである。自由民主主義陣営は、ロシアに対して毅然とした対応を取り続ければいい。

 むしろ「新冷戦」という状況が起こるならば、それは中国の台頭である。しかし、筆者は対中国でも「自由民主主義」が有効な戦略となりえると考える(第67回)。それについては、後日論じるつもりである。