ただ、インタビュー時の好印象があるせいか、「白鵬は何か思うことがあって、猫だましを含めた色々な技を出しているのではないか」とも思うのだ。筆者の見解ではあるが、白鵬は相撲協会や好角家から「横綱はこうあらねばならない」という目で見られ続けていることに疲れてきたのではないだろうか。

 白鵬が横綱を務めるようになったのは2007年7月場所からで、すでに8年が経っている。横綱在位は51場所。1位は北の湖の63場所で、千代の富士の59場所、大鵬の58場所に次いで4位に当たる。あと2年、横綱を務めれば1位の北の湖に並ぶわけだ。

 当初は朝青龍と二人で横綱を務めたが、朝青龍が引退に追い込まれた後は2年8ヵ月、ひとり横綱として相撲を支えた。横綱は負けてはいけないうえ、取り口や土俵上の態度も「横綱はこうあらねばならない」というプレッシャーを受けながら、堂々と受けて立つ相撲で勝ってきた。が、そのうち同郷モンゴルの後輩力士、日馬富士と鶴竜が力をつけて横綱になった。やはり同郷の照ノ富士、逸ノ城という巨漢力士も脅威の存在になりつつある。また、肝心のところで勝ち切れず横綱になれないものの対戦すれば手ごわい稀勢の里という大関もいる。

 外国人力士が当たり前になった今は国籍関係なく声援を受けるようになったが、それでも日本人力士の壁として立ちはだかる白鵬には「負けろ」という声がかかることもある。「憎らしいほど強い」といわれた北の湖も全盛期は「負けろ」という声を浴びたが「横綱が頑張れといわれたらおしまいだから」と思って耐えたというが、長年、こうしたプレッシャーを受けていたら、心が折れそうになることもあるだろう。

 その一方で、「相撲とはこうあるべきだ」と考える古くからの好角家とは異なる新たなファンも生まれている。ネットで猫だましを「面白い」と反応するような。

 白鵬はこうした時代の変化を理解したうえで、「横綱がこんな技を出したらファンはどう反応するのか」と考え、問題提起をしたのではないだろうか。7日目には「やぐら投げ」という大技で隠岐の海を下して喝采を浴びた。そして10日目には猫だまし。白鵬は今場所、滅多に見られない技をふたつ見せたことになる。猫だましだって奇襲戦法ではあるが、楽して勝つための技ではないし必勝法でもない。今回は勝ったからよかったが、もし負けたらそれこそ批判を浴び、これまでの栄光に自ら泥を塗ることにもなる。相当な覚悟で、この技を出したはずだ。

 しかし敢えてやって見せた。そして物議を醸すことで、品格やら精神性で窮屈すぎる相撲界を少しは変えることになり、時代に応じた新たな相撲の魅力を提示できる。白鵬にはそんな意図があったのでは?というのは、考え過ぎだろうか。