「1億総活躍社会」実現に向けた国民会議(11月26日)で打ち出されたアベノミクスの新三本の矢では、介護離職ゼロが主要な目標のひとつとして掲げられている。しかし、そのためには、働き方の改革とともに、現在の介護保険が抱える基本的なジレンマを克服しなければならない。それは急速な高齢化の下で介護報酬の膨張を抑制する一方で、介護の担い手と事業者の双方に十分な報酬を保障することである。
介護サービスの利用者は年々増えており、介護給付費は設立当初の3.6兆円から2013年の9.4兆円まで大幅に増加している。これと年金や医療も含めた社会保障費全体の増加分は、社会保険料や税だけでは賄えず、毎年の赤字公債の発行で調達されている。この日本の「借金に依存した社会保障」の現状は、中長期的に維持可能ではない(参考:https://diamond.jp/articles/-/63242/)。財源を無視した介護の改革論は絵に描いた餅である。
今後、持続的に減少する生産年齢人口の負担する税や社会保険料の引き上げには限界があり、介護報酬の水準は長期的に抑制されざるを得ない。他方で団塊の世代の高齢化が進み、要介護者が急増するなかで、介護労働者確保のために賃金を上げれば、事業者の経営が成り立たない。
2000年に設立された介護保険は、高齢者の介護を家族だけの責任ではなく、社会全体で支え合うための画期的な制度である。それ以前の、政府が介護の需要と供給を全面的に管理する高齢者福祉制度に代えて、企業を含む多様な事業者が介護サービスを提供し、それを購入する家族を保険給付で支援する仕組みである。しかし、その介護保険設立時の精神は、次第に形骸化し、厳格な価格統制の下で、事業者の創意工夫の余地は狭められている。
今後、多様なニーズがある介護サービス市場を育て、その基本部分を公的な保険給付で賄うという発想が必要である。その結果、介護サービス産業が、財政の制約を離れて高齢化社会の成長産業として発展することが、真の成長戦略である。