急速に進む高齢化に伴い、持続的に増え続けている日本の社会保障費。今や賃金に比例して低迷する社会保険料では賄えず、多額の国債発行によって補われているのをご存じだろうか。こうして借金に全面的に依存している不安定な構造の改革こそ、安倍政権に求められるミッションだ。しかし八代尚宏・国際基督教大学客員教授は、安倍政権の社会保障制度改革について、本来必要な抜本改革からほど遠いとし、65点と評価する。

誰も触れたがらない社会保障制度改革

誰も触れたがらない“アベノミクスの宿題”<br />抜本改革からほど遠い「社会保障改革」<br />――八代尚宏・国際基督教大学客員教授やしろ・なおひろ
国際基督教大学客員教授・昭和女子大学特命教授。経済企画庁、日本経済研究センター 理事長等を経て現職。最近の著書に、『反グローバリズムの克服』(新潮選書)、『 社会保障を立て直す』(日経新聞出版社)、「規制改革で発展するシルバー市場」等がある。

 足元の経済情勢への配慮から消費税率の引き上げが延期された。これを「アベノミクスの失敗」と批判するのは、短期的な景気対策としてしか見なさない皮相なものである。アベノミクスの本質は、グローバル経済化や少子高齢化等、急速に変化する社会環境に対応して、日本経済の潜在成長力を高める政策パッケージである。これを成功させるために何が必要かの政策論争の方が、より生産的である。

 安倍政権における社会保障制度改革は、これまで、現行制度の下での部分的なものである。その方向性は正しいとしても、本来、必要な抜本的改革からは、ほど遠い内容にとどまっている。今後の改革への期待を込めて65点としたい。

 アベノミクスの「3本の矢」は、金融・財政政策による需要拡大でデフレギャップを解消し、これを規制改革等で潜在成長力を高める時間差のある政策である。公共投資で需要を増やす一方、日銀の国債購入で金利上昇を防ぐマクロ政策は、雇用需要を高め、失業率を低下させる等の成果を上げた。

 次の政策の重点は、人手不足で建設工事が制約される下で、需要を公的部門から民間部門へと組み換え、財政に依存しない持続的な経済成長を実現することである。これを早急に進めなければ、財政が民間需要を抑制するクラウディングアウトに陥る危険性がある。

 これには、民間の投資や消費需要を活発化させる規制・税制改革とともに、日銀による際限なき財政赤字ファイナンスを防ぐことが不可欠となる。大幅な財政赤字の抑制が急務であることは、安倍総理も常に強調している。しかし、一般会計赤字の根本的な要因は、公共投資や公務員の人件費よりも、社会保障関係費の持続的な増加であることが重要だ。