オバマ大統領は、テロとの戦いが「新たな段階に入った」と国民に呼びかけた。戦いの場はアメリカ本土まで広がった、ということである。世界各地で「ホームグロウン・テロリスト」が動き出した。一匹狼のような攻撃。シリア空爆への報復だという。

「テロとの戦い」に加わるな!日本には別の役割があるイラクとシリアでは、米軍主導でISに対する空爆が行われている
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 無防備な市民を無差別に襲うテロは、許されるものではない。だが空爆もまた無防備な人々を殺傷する。テロは武力で無くなるのか。ハイテク兵器を駆使して殲滅を図っても、更に手強い敵が現れるだけだろう。威勢いい掛け声に釣られ、憎悪と報復が連鎖する戦いに日本が首を突っ込むのはバカげている。この国が問われているのは「中東で手を汚していない大国」という貴重な立ち位置を活かす知恵ではないだろうか。

ISは「イラクの混乱が父、
シリアの内戦が母」

 テロの犠牲者を悼むとき、なぜテロが起きたのか、考えたい。「IS(通称イスラム国)」が背後にある。どうしてこんなに過激な武装組織が生まれたのか。中東を研究する高橋和夫さんは「イラクの混乱が父親で、シリアの内戦が母親」という。混乱と内戦の中で支持を広げた。他に選択肢は無かったのかもしれないが、絶望的な境遇がISの背後に広がっているのだろう。

 シリアでアサド政権と戦う武装組織はたくさんある。米国が支援する自由シリア軍やアルカイダ系とされるヌスラ戦線ではなく、ISが領土を持つに至ったのは、それなりの理由があるのだろう。800万人が暮らし、徴税も行われている、という。

 かつて内戦の中国に生まれた毛沢東の人民解放軍が、先進国が支援する蒋介石の国民党軍を打ち破った。共産主義思想を掲げ、国際的な孤立をはねのけ今や大国になっている。アメリカもそうだ。武器を取って英国の植民地から独立した。初代大統領ジョージ・ワシントンの掲げた理念は、宗主国からみれば危険思想だった。ISと敵対するイランも、アラブの産油国を震え上がらせたイスラム原理主義革命で誕生した。

 国家という枠組みが解体した混沌から、新たな秩序を生み出すには、過激で分かりやすい思想や血なまぐさい闘争が伴う。ISが歴史の審判に耐えるかは分からないが、中東の現実が生み出した産物であることは確かだ。

 パリの惨劇は「シリアに目を向けろ」という強烈なメッセージだった。「テロリストの論理に乗るな」という声が聞こえそうだが、シリアで日常化している悲劇は「今世紀最大の人道危機」という使い古した言葉で済ますわけにはいかない。パリのように、凄惨な現場がメディアによって報じられることはない。遺族の悲しみもの伝えらえない。死んだ人の数さえ数えてもらえない。その空爆にフランスは加担している。爆弾が落とされた下でどのような悲劇が起きているか。パリ市民に限らず、平和に暮らす先進国の人々は関心の外に置いてきた。テロは許されないが、テロリストにも一分の理はある。