地方には、中古住宅の問題に加えて、地方特有の問題がある。たとえば地方に居住して高齢になった場合、自分で自動車の運転ができなくなると、交通が大きな問題となる。車社会化が進展した地方では、バス路線も赤字化から運行本数が激減したり、あるいは路線廃止となっていることが多い。しかし石破氏は、岩手県や福島県のバス会社が、路線バスのルートと運行スケジュールを最も利用者の利便に適するよう見直すことで「すぐ大黒字に」なった事例を挙げた。

 また、仕事を作る問題については、「先進国最低レベル」の海外からの観光客を増加させることによって「仕事は作れるはず」とし、「賃貸業界の皆さんのご協力で、住宅問題も前進するはず」という。東京近辺に残りたい妻と故郷に戻る夫が同居できなくなる可能性については、

「来てくれない奥さんに対しては、JALやANAに『空気を運ぶよりマシでしょう?』と、年に何回か半額フライトを用意してもらいましょう。JRの『大人の休日』の進展形です」

 と、聴衆の笑いを誘った。ついで、口調をやや厳粛な雰囲気に切り替え、

「今を生きる私たちは、日本をどう衰退させないで次世代に渡すかが、自分たち世代の責務です」

 と、締めくくりに入った。

 石破氏は、「賃貸業界は、どうすれば顧客本位の『ああ、そうだったんだ』になるかを考えてほしい」「首長だけに任せておかないで、民間の力で」「医療と介護をどう組み合わせるかが最大のポイント」「定期借地権の活用を」「新興住宅地ができて発展していく時の大変な行政コストを、中心街に寄せるには」といった、極めて具体的であり、かつ、実現した場合の可能性に大きな希望を持てる数々を語ったあと、「各自治体で、活性化、衰退防止に知恵を絞らなくてはなりません。生の声、切実な要望を寄せてください」と30分間の講演を結び、大きな拍手を受けながら退出した。

 石破氏がこの講演で前提とした夫妻像は、夫がサラリーマンで妻は主婦、サラリーマンの夫は出世しなかったが50歳過ぎまで勤務が続けられ、苦しい思いをしながらもローンを完済できた、というものだ。1990年以後の状況を考えれば、極めて恵まれた夫妻である。そのような人生レールからこぼれ落ちてしまった人々は、石破氏の構想するレールにも乗れないであろう。また、「奥さん」などの用語の選択にも違和感を覚えた。

 しかしこの基調講演で、私は石破氏の温かい声、穏やかかつ説得的な口調、常に参加者の一人一人に直接語りかけているように感じられる表情と目線の配り方としぐさに対し、素直に「すごい」という思いを抱いた。参加者の手元には豊富なデータを含む29ページもの資料が配布されていたが、石破氏は一度もそれらを参照せず、データの数値やグラフの内容も参照しながら語り続けたのであった。

 私は石破氏の政治的主張の多くに賛同しないが、政治家として蓄積してきた経験と知識とスキルの量と厚みに対して、稀少かつ貴重なものであることを認めざるを得ない。