「富めるものから先に富め」という鄧小平の言葉で有名な南巡講話(1992年)以来、約20年が経った。その言葉が象徴するように、中国は今や米国に次ぐ世界第2位の経済大国に躍り出ようとしている。

 だが、改革開放の旗頭として発展を続けてきた上海、北京、深センなどの都市部とは異なり、ある意味置き去りにされてきたイメージが強いのが、中国の「農村部」だ。その状況は、直近も変わることがない。

 これまで中国の農村部の人たちは、収入格差、戸籍問題などにより、都市部とは比べ物にならないほど不利な環境下での生活を余儀なくされてきた。

都市部の工場労働者が回帰?
にわかに活気づく農村部の現状

 ところが、ここにきて風向きが少し変わり始めている。農村部の経済が、これまでになく賑わっているのだ。その背景には、グローバル金融危機からの早期回復を目指して、中国政府が2009年に導入した「家電下郷」や「汽車下郷」といった農村部の住民に限定した補助金制度の影響もある。

 これまでカネを稼ぐために、仕方なく都市部へ出稼ぎに来ていた農村部の工場労働者たちも、景気のよくなった農村部に帰り、出稼ぎには出てこなくなった。そのため、都市部の工場は人手不足になっている。

 このようなトレンドからもわかる通り、中国ではいよいよこれから「農村の時代」が始まろうとしている。

 中国における農村部の人口は、国全体の半分以上となる7億人を占める。つまり、13億人という膨大な消費ニーズに魅了されて中国に進出する日系企業は、「農村を攻略せずして目標を達成することはできない」ということだ。

 確かに現時点では、都市部と農村部の経済格差はまだまだ大きい。たとえば、09年の農村部の平均年収は5.153元と、都市部の平均年収17.175元の3割に過ぎない。しかし逆に考えれば、農村にはそれだけ「潜在的成長力」があるとも言えるだろう。