大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月20日に発売された。日本でも発売早々に増刷が決定、反響を呼んでいる。本連載では、NIC在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど多岐に渡る分析のなかから、そのエッセンスを紹介する。
第14回では、外部からは安定しているようにも映る独裁国家の打倒が招く混乱のインパクトを分析する。
独裁国家の打倒が
今後20年の政情不安を招く
ユースバルジ(人口構成で若年人口が突出していること)と、内戦や民族紛争の間には高い相関関係がある。慢性的な紛争は、国家が脆弱な理由の一つだ。
1970年代以降に起きた内戦と民族紛争(戦闘関連の死者数が年間25人以上の紛争)の約80%が、ユースバルジのある国で起きた。現在、国民の平均年齢が25歳以下の国は80カ国以上ある。
若年人口が多く「人口動態が不安定な地域」は、中央アメリカと中央アンデス、サハラ以南のアフリカ、中東、南アジア、および中央アジアに多い。ユースバルジ以外にも、目先の社会不安を大きくしそうな要因がある。
まず挙げられるのは、権威主義体制から民主主義体制への移行だ。こうした体制移行中の国が不安定になりがちであることは、複数の研究で示されている。
私は社会学の手法を使って、独裁体制と民主主義体制の中間にある国を体系的に整理したことがある。「自由かつ競争的な方法で首長を選ぶ」「国民の全グループが政治過程に参加している」といった民主主義の基本的条件を備えていない国は、大規模な政治不安が起きやすいハイリスク国だ。
一方、民主主義の条件をほぼ完全に備えた国は、政治不安のリスクが低い。現在、そして今後20年間を考えたとき衝撃的なのは、ハイリスク国に該当する国が50カ国近くもあることだ。これは見方によってはいいことだ。