大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月20日に発売された。日本でも発売早々に増刷が決定、反響を呼んでいる。本連載では、NIC在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど多岐に渡る分析のなかから、そのエッセンスを紹介する。

第11回では、今後数十年にわたるアジアの地域秩序の行方がテーマだ。現在もなお、アジアは前世紀の戦争の歴史がもたらす対立から自由ではない。今まではアメリカが安全保障の要となってきたが、今後アジアはEUのような地域秩序を自らの手で築くことができるのだろうか。

中国の経済成長が止まったとき
アジアで紛争が起こる?

東アジアでは、急激な経済成長、劇的なパワーシフト、愛国主義の高まり、そして猛烈な軍備近代化(中国だけでなくインドもやっている)により、新興国と日本の間で緊張と競争が増している。

アジアでは第2次世界大戦の戦後処理が異例の形を取ったことと、それゆえに朝鮮半島と台湾海峡で対立が続いたため、歴史的な不満が徐々に拡大してきた。中国の勢力拡大に対する不安、地域全体における愛国主義的機運の高まり、そしてアメリカがアジアから撤退するのではないかという不安は、今後数十年にわたり東アジアの緊張の種になるだろう。

日本の衰退がアジアに混乱をもたらす

日中関係、日韓関係、中韓関係、中印関係、そして中越関係のこじれが示すように、アジアでは経済成長と相互依存が歴史的な不満を緩和する方向には働かなかった。このため東アジア諸国は、経済的には中国に、安全保障ではアメリカと中国以外の国々へと、二つの方向に引っ張られるだろう。

1995年以降、日本、韓国、オーストラリア、インドなどのアジアの大国は、通商面ではアメリカから離れて中国に接近する一方で、安全保障面ではアメリカとの関係を強化する「保険」戦略をとってきた。

このパターンは当面続くだろう。しかし中国で法治主義が拡大し、近代化された軍備の透明性が高まるなど政治の自由化が進めば、東アジア全体の安全保障上の懸念は縮小し、念のためアメリカに頼る必要性は低下する。

中国の経済成長が続き、イノベーションと内需主導型の経済に転換すれば、東アジアはますます世界の貿易と投資の中心になるだろう。これに対して、中国経済が深刻または長期的な危機に見舞われた場合、地域全体への影響力は低下し、地域が不安定するおそれがある。