大統領の指針ともなる最高情報機関・米国国家会議(NIC)。CIA、国防総省、国土安全保障省――米国16の情報機関のデータを統括するNICトップ分析官が辞任後、初めて著した全米話題作『シフト 2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』が11月20日に発売された。在任中には明かせなかった政治・経済・軍事・テクノロジーなど、多岐に渡る分析のなかから本連載では、そのエッセンスを紹介する。
多くの先進国では高齢化・人口減が課題となっているが、マクロ的には世界は「これから」人口爆発を迎えるといえる。15年後には食糧需要は135%増だが、食糧生産の伸びはそれに遠く及ばない。マルサスの予言は21世紀に的中するのか――NIC元トップアナリストが分析する。
世界は「これから」
人口爆発をむかえる
水や食料の「欠乏」という表現にはさまざまな含意があり、『グローバル・トレンド2030』(新大統領に手渡される報告書)で使うかどうかは大きな議論になった。マルサス的な食うか食われるかの生存競争を思い起こさせるとして、その表現を嫌う人は多かった。
マルサスの主張は間違っていたからなおさらだ。18世紀の経済学者トマス・マルサスは、人口爆発によって貧困が生じるのは必然だと主張したが、実際にはそうはならなかった。テクノロジーが発達して、農業生産が増えたために、人口爆発は食料供給を凌駕することはなかったのだ。しかし21世紀も同じになるとは限らない。
積極的な予防措置を取らなければ、大規模な欠乏が生じるのは間違いない。現在の1人当たりの食料と水の消費パターンを見れば、20年後の問題が予測できる。食料需要は2030年までに35%以上増えるが、食料生産の伸びは遠く及びそうにない。1970〜2000年は年間2.0%のペースで伸びてきたが、現在は1.1%まで鈍化しており、今後も鈍化が予想される。
マッキンゼー・グローバル・インスティテュートによると、「資源価格のトレンド」は2000年を境に、「突然、決定的に変わった」。20世紀の間は、資源価格は実質ベースで下落していたが、2000年以降は2倍以上高騰した(過去2年間は商品価格が下落しているにもかかわらず、だ)。資源価格はいまも歴史的な高値水準にある。
過去8年間、世界の食料消費量は生産量を上回ってきた。ある研究によると、2030年の世界の水の年間需要は6兆9000億立方メートルと、現在の持続可能な水供給量を40%上回ると見られている。