「“1億総活躍”にはもっとやるべきことがある」
「社会保障制度改革も今こそ断行せよ」

──経済政策で言うと、「新3本の矢」はどうなりそうでしょうか。

飯田 「旧3本の矢」は、賛否はともかく“何をやるのか”は少なくとも経済学者は全員分かった。ですが「新3本の矢」は、「新3個の的」に近い話です。「1個も矢じゃないな、これは」と思ったという人が多いでしょう。

 昨年夏の安保国会の影響は否定できません。一時的ではありますが支持率が下がったことで、具体的な提案を出しにくくなってしまった。そう考えると、「新3本の矢」が具体化するかどうか、というか「新3個の的」を射るための矢がはっきりするのは、参院選の結果次第ですね。選挙の結果が思ったよりふるわないと、政治の指導力が落ちて、さらに玉虫色のことしか言わなくなるでしょう。逆にバカ勝ちした場合は経済の話はどうでもよくなってしまうかもしれません。日本経済のためには、参院選で与党が「ほどほど勝つ」くらいが望ましいのかもしれない。

小黒 「新3本の矢」は私も「的」だと思っているのですが、もうちょっと踏み込んでほしかったところがある。新しく出てきた「一億総活躍」をどう解釈するかということです。日本経済が抱える一番大きな問題として、やはり人口減少がある。安倍政権が成長を重要だと考えているとすれば、労働人口が減っていくというのは極めて大きな問題です。

 この労働人口を増やすということを考えたとき、大きく二つ方向があります。一つは国内の潜在的な労働者をもっと活用していくという方向ですね。その中にはさらに女性の労働力の活用と、高齢者の人たちに働いてもらうということがある。女性の労働力活用について、出生率1.8という目標を掲げ、育児と労働が両立する社会を形作っていくというのは非常に良いことなのですが、ボリューム的には高齢者の方が大きい。そこをどうするのかというところが踏み込み不足だった。

 急増する介護難民との関係で「介護離職ゼロ」という目標も重要ですが、高齢者の人たちの労働参加を伸ばすという点では、例えば年金の支給開始年齢引き上げなどが、最も重要な政策ツールとしてあったはずだと思います。今65歳の支給開始年齢をいきなり70歳に上げるというのは難しいかもしれませんが、段階的に70歳まで上げていくという話があってもよかった。

 もう一つは、外国の人たちに入ってきてもらうという方向です。移民受け入れまでいくかどうかは分かりませんが、どこまで広げるのかという議論が抜けていた。このあたりを、参院選後の2016年の課題として踏み込んでいくと、もう少し違った日本経済の姿が出てくるのではないかと思います。

飯田 女性の労働参加を増やそうというときの、いわゆる「130万円の壁」についてどうするのかもはっきりしていません。高齢者の雇用についても、もっと長く働いてもらうことで、年金の支給開始年齢を遅らせるというビジョンが必要ですよね。支給開始年齢はやはりせめて70歳にすべきです。年金は“長生き保険”です。72歳まで生存すれば元が取れてしまう「保険」がもつはずがない。このままでは社会保障制度がもたない。