従来、私はビジネスリーダーに特化した社員研修を実施していたのですが、ここ数年、その業務に加え、1000人以上の若手社員(20代~30代半ば)の研修やインタビューをする機会に恵まれました。
私は大学卒業後、3年間のサラリーマン生活を経て、大学受験専門の英語塾の経営を始めました。2000年が、現場の教師として私が生徒と接していた最後の年になります。年々、打っても響かない生徒が増え、一生懸命やっているこっちのほうがバカバカしく感じるようになっていました。「なんで彼らは一生懸命できないんだ」、そんなもどかしさがあり、塾の仕事にやり甲斐を感じなくなっていた時期でもありました。
私が塾を経営していた当時、中学生、高校生、浪人生だった生徒たちは、現在、大学を卒業して社会に出ています。
その後、私は今のコンサルティングの仕事に転じたわけですが、塾経営当時、私の生徒だった年代が、期せずして再び私の研修の受講者となったわけです。
従来のビジネスリーダーに特化した研修を通じて、実感することがあります。どの企業にうかがっても、受講者の多くから、異口同音に部下の育成に関するあきらめに近い嘆きばかりがこぼれてくるのです。
私が受講者にお願いしているのは、あくまでも理想論です。コーチングなどの手法を使いながら部下との対話を通じて、彼らの能力と自発性を引き出してくださいという話です。どこにでも書いてあるような当たり前のことを愚直に続けてくださいとお願いすることが中心になります。
しかし、ビジネスリーダーの現状を見ると、管理業務に特化できるわけではありません。仕事量は膨大に増え続けている反面、効率化のもと人員は極限まで削減され、プレーイングマネージャーとして仕事をしている方がほとんどです。現実問題として、充分な対話の時間をつくることが極めて難しいのです。
また、実際のビジネスの現場に目を転じると、特に製造現場の最前線ではコーチングは機能しません。大手企業の製造部門では、係長クラスでも100人以上の部下がいて、課長クラスになれば300~400人の部下がいます。さらにプラント設計の現場では、一人の監督が数千人の作業員を指揮することになります。このような職場では、的確な指示・命令が安全にもつながります。もちろん、それ以外の職場であっても、コーチングは数ある育成方法の選択肢のひとつにすぎないのです。
最新のコーチングが万能とは限らない
コーチングが最新でも万能でもないことは、現場の管理職の皆さんが一番よく知っています。時間に余裕のあるとき、コーチングは機能しますが、そんなこと他人に言われなくたって、ビジネスリーダーはすでに実践しています。そうでなければ、仕事は回りませんから。そのような能力があるからこそ、管理職として抜擢されてきたのです。
また、いざ対話や育成の時間ができたとしても、若い世代とのジェネレーションギャップは永遠の課題です。