実験はこれで終わりではない。これは、事前にテストを実施する実験の第1段階にすぎない。第2段階は、従来の勉強の仕方で勉強する。
この段階に進むため、あまりよく知らない国をさらにもう12選ぶ。そして、首都とあわせて書きだした表を作り、それを覚える。ナイジェリア─アブジャ、エリトリア─アスマラ、ガンビア─バンジュール、という具合だ。覚えるのにかける時間は、5択問題を解いた時間と同じにする。
これで、アフリカの国の首都を実質24覚えたことになる。最初の半分は、事前に勉強することなく5択の問題に答えるという形で勉強した。そして残りの半分は、見て覚えるという昔ながらの方法で勉強した。次は、最初の12国と残りの12国の知識の比較だ。
翌日になったら、24ヵ国すべての首都を5択問題でテストする。テストを終えたら、最初の半分と残りの半分で結果を比較する。
ほとんどの人は、最初に覚えた国の問題で、10~20パーセント高い点数をとる。自分で答えを推測した後に正解を聞くやり方で覚えたほうだ。心理学用語を使った言い方をするなら、「検索の失敗が学習を促進し、その後のテストでの検索で成功する確率を高めた」ということだ。
シンプルな言い方をするなら、「答えを推測したおかげで、勉強して覚えるときよりも覚えたいという意識が強く働き、正しい答えがより深く脳に刻み込まれた」となる。さらにシンプルに表すなら、事前テストを実施することで、いつもの勉強とは違う形で情報が脳に伝わったと言える。
なぜ「事前テスト」が
学習効率を高めるのか
なぜそうなるのか? 確かなことは誰にもわからない。可能性としては、事前テストの実施が「望ましい困難」として機能することがあげられる。真っ先に正解を覚えるのではなく、まずは答えを推測することにより、作業が少々大変になる。
もう一つ考えられるのは、間違った推測のおかげで、流暢性が招く幻想(連載の第3回参照)が排除される可能性だ。何も勉強せずいきなり推測するのだから、「エリトリアの首都の名称を見た(勉強した)ばかりだから知っている」という錯覚に陥らずにすむ。また、ただ覚えるだけのときに見るのは正解だけで、5択問題を解くときのように、残る4個の選択肢は目にしない。
「外国の首都を勉強していて、オーストラリアの首都はキャンベラだと学んだとしよう」ロバート・ビョークは私にこう説明を始めた。
「そうすると、簡単に覚えられると思うかもしれない。しかし、試験の問題では、ほかの選択肢が提示される。シドニー、メルボルン、アデレードなどが正解と一緒に並んでいると、とたんに自分の答えに自信がなくなる。正しい答えだけ覚えようとすれば、脳裏や問題用紙に現れるかもしれないほかの選択肢のことを何も理解できない」
予行演習としてテストを受けることには、教師の手の内を垣間見ることができるというメリットもある。「たとえ答えを間違っても、その後の学習効果は向上すると考えられる」とロバート・ビョークは言い添える。「そのテストによって、理解する必要のあることに意識が向くようになるからだ」
これについては、メリットがあるのは学ぶほうだけではない。教師の役にも立つ。教師は事実や概念を好きなだけ教えることはできるが、結局のところ、生徒がそれらをどうとらえるかが何よりも重要だ。学んだことを頭のなかでどのように整理し、学んだことを活かして何が重要で何がそうでもないかをどのように判断するかが大切なのだ。
(※この原稿は書籍『脳が認める勉強法』の第5章から一部を抜粋して構成したものです。次回は1月12日(火)公開予定)