最新の科学研究によれば、これまで定説とされてきた勉強法は多くの場合に間違っているという。では、どうすれば脳はもっとも効率よく学べるのか。米三大紙「ニューヨーク・タイムズ」の人気サイエンスレポーターが、脳をフルパワーで働かせる記憶・勉強法を徹底解明。米国ベストセラー『脳が認める勉強法』から、内容の一部を特別公開する。
「分散学習」は一夜漬けに勝る
記憶の研究でもっとも古くからある学習テクニックの一つは、もっとも強力かつ信頼性が高く、使い勝手がよいものの一つでもある。
100年以上前から心理学者たちのあいだで知られ、外国語の単語、科学用語、概念、公式、楽譜といった暗記する必要のあるものの学習を深める効果があると実証されている。
にもかかわらず、教育の本流では無視され続けてきた。学習カリキュラムに組み込んでいる学校は皆無に近いので、このテクニックを知っている学生もほとんどいない。とはいえ、平然と聞き流していた母親のアドバイスに、次のようなものがあったのではないか。
「ねえ、一度に全部勉強するより、今晩少し勉強して明日もまた少し勉強する、というふうにしたほうがいいんじゃない?」
このテクニックは、分散学習や分散効果と呼ばれている。一気に集中して勉強するのと、勉強時間を「分散」するのとでは、覚える量は同じでも、脳にとどまる時間がずっと長くなるのだ。
母親のアドバイスは正しい。今日少し勉強し、明日また少し勉強したほうが、一度に全部するよりいい。そのほうがはるかにいい。場合によっては、後から思いだす量が2倍になることもある。
詰め込みは無意味だと言いたいのではない。徹夜で勉強することの効果は、翌日の試験の点数が向上するという記録が昔からあるので実証ずみだ。
ただし、前夜のラストスパートの信頼性については、荷物を詰め込みすぎた安物のスーツケースみたいなところがある。入りはするが、しばらくするとすべて落ちてしまう。
学習の研究者によると、一気に詰め込む勉強を習慣にしていると、新しい学期を迎えたときに、成績がガタ落ちする可能性があるという。
それをした学生は、「次の学期が始まる頃には、前の学期に覚えたことを何一つ思いだせない」と、ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学の心理学者、ヘンリー・ローディガー3世は私に話してくれた。「その授業をとったことがないかのような状態になる」
分散効果は、新しいことを覚えるのにとくに有効だ。たとえば、電話番号かロシア語の単語が15個並んだリストを2種類用意する。一方のリストはその日と翌日に10分ずつ覚える時間を設け、もう一方のリストは翌日に20分かけて覚える。そして、1週間後に両方のリストをどれだけ覚えているかテストする。明らかに違いが現れるはずだ。ただし、なぜそうなったかははっきりとはわからない。(中略)