複雑な清掃作業を素早く行う
「7分間の奇跡」に感動

イーサン・バーンスタイン
Ethan S. Bernstein
ハーバードビジネススクール助教授。専門はリーダーシップと組織行動。MBAプログラムにて必修科目「リーダーシップと組織行動」、PhDプログラムにて「フィールド調査の技術」を教える。組織におけるリーダーシップ、コラボレーション、チームワーク、デザイン・シンキング、組織学習を専門に研究。1996年米アーモスト大学在学時、交換留学生として同志社大学に留学したのを機に、日本に強い関心を持つ。2004年から2005年までボストンコンサルティンググループ東京オフィスに赴任し、プロジェクトリーダーを務めた。最新の執筆ケースに“Trouble at Tessei” (Harvard Business School Case 615-044, January 2015)がある。

佐藤 バーンスタイン助教授は、2014年に来日し、テッセイを訪問したそうですが、どういう方々に取材をしたのでしょうか。

バーンスタイン 矢部輝夫さん、そして、実際に新幹線を清掃されているスタッフの方々にインタビューしました。もちろん、7分間で全車両の清掃を終える「7分間の奇跡」も見学させてもらいましたよ。それから新幹線のプラットフォームの下にある待機所も見せていただきました。そこでスタッフの方々は、担当車両が来るのを待ち構えているのだそうです。

 プラットフォームとプラットフォームの間に小さなドアがあって、矢部さんがそのドアをあけると、その向こうには「プラットフォームの下の新世界」が広がっていました。まさにハリー・ポッターになったような気分でしたよ。一瞬、東京駅の「9と3/4番線」に迷い込んでしまったか、と思ったほどです。

佐藤 バーンスタイン助教授は日本の鉄道が大好きですものね。どれだけ興奮したか、想像がつきます。実際に取材をされて、何が最も印象に残りましたか。

バーンスタイン 清掃スタッフの皆さんが非常に複雑な作業を短い時間でこなしていることに、ただ驚くばかりでした。清掃なんて簡単な作業だろうと思いがちですが、実際そうではありません。

バーンスタイン助教授は矢部輝夫さんに直接取材した(2014年3月撮影、Courtesy of TESSEI)

 JR東日本が運航する新幹線には様々なクラス、車両があり、その構造をすべて理解していないとあれほど短時間で清掃を終えられないのです。新幹線を清掃するというのは、ただの清掃作業ではありません。非常に複雑なオペレーションなのです。

 清掃スタッフだけではありません。従業員がやりがいをもって働けるような職場をつくりあげた矢部さんや管理職の方々も素晴らしいと思いました。そこで、テッセイの皆さんが成し遂げた偉業をハーバードの学生たちに伝えたい、と思ったのです。

多面的な問題に直面した矢部さんに
ハーバードの学生が学ぶことは多い

さとう・ちえ
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。報道番組や音楽番組のディレクターとして7年間勤務した後、2000年退局。2001年米コロンビア大学経営大学院卒業(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。2004年よりコロンビア大学経営大学院の入学面接官。近年はテレビ番組のコメンテーターも務めている。主な著書に『世界最高MBAの授業』(東洋経済新報社)、『世界のエリートの「失敗力」』(PHPビジネス新書)、『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書) 
佐藤智恵オフィシャルサイト

佐藤 『テッセイのトラブル』という教材では、2005年に矢部さんが直面した状況を簡潔に説明されていますね。

バーンスタイン そうです。当時、矢部さんは非常に難しい問題に直面していました。テッセイは、オペレーション、人事、リーダーシップ、組織構造など、すべてにおいて問題を抱えている会社だったのです。

 矢部さんはJR東日本で何十年も安全管理の専門家として活躍してきた方です。しかし、清掃やメンテナンス事業の経験はありませんでした。テッセイの役員に就任したとき、これまでの自分の経験の中から、何をどう生かせば、目の前にある問題が解決していくだろうか、と考えなければなりませんでした。

 個人的にこのケースを教えるのが面白いと感じているのは、矢部さんが「多面的な」問題を解決しなければならなかったことです。ですからテッセイのケースは、ハーバードでも様々な専門性を持つ教員が、それぞれの視点で教えることができる教材となっています。