2015年または2016年に日本の上場企業に適用されるといわれている国際会計基準(IFRS)。「会計基準が変わるのはまだまだ先」と思われる方が多いかもしれないが、日本会計基準はIFRSに向けた準備を着々と進めている。それは、IFRSとの差異を解消するために行なわれている「コンバージェンス」という動きだ。
コンバージェンスとは、IFRSが適用されたとき、従来と重要な差異が生じないように自国の会計基準を修正していくこと。日本では、会計基準の開発を行なう組織である企業会計審議会(ASBJ)が、現在進行形で日本基準とIFRSとの重要な差異の解消に向けてコンバージェンスを行なっている。
数多くコンバージェンス項目がある中でも、早い段階から差異解消に向けて基準の修正が行なわれてきたものの1つが、「棚卸資産」である。今回は、日本基準とIFRSの棚卸資産に関する考え方はどう違っていたのか、そして棚卸資産に関する日本の会計方針がどのように変更されたのかを、見ていくことにしよう。
棚卸資産の評価は“低価法”へ一本化
棚卸資産とは、商品・製品・半製品・原材料・仕掛品など、企業が販売または加工を目的として保有する資産を指す。いわゆる「在庫」のことをいうが、日本基準はこれをめぐって、すでに2つの大きな会計方針の変更を行なっている。
まず1つ目が、棚卸資産の評価方法を「“低価法”に一本化」したことだ。
これまで日本基準では、取得原価に基づいて資産を評価する「原価法」と「低価法」の選択適用が認められていた。しかし、2008年4月1日より適用された『棚卸資産の評価に関する会計基準』によって、取得原価と時価とを比較し、いずれか低い方の価額を期末資産の評価額とするいわゆる“低価法”が強制適用された。
具体的には、「期末における正味売却価額が帳簿価額より下落している場合、収益性が低下しているものと判断し、正味売却価額への簿価切下げを行ない、帳簿価額と正味売却価額との差を当期の費用として処理する」(牛山誠・有限責任監査法人トーマツ パートナー)方法がとられることになった。
ただ、今回強制適用された“低価法”は、厳密には低価法ではなく、あくまでも「取得原価基準」の下で回収可能性を反映させるように、過大な帳簿価額を減額し、将来に損失を繰り延べないためのもの。つまり、「原価法の枠内で評価減を求める会計処理」(牛山氏)であることに若干留意する必要があるだろう。