低迷が続く自動販売機事業で、キリンビバレッジとダイドードリンコが提携した。長らく飲料業界の花嫁といわれてきたダイドーがついに“陥落”したことで、業界はざわめき立っている。日本コカ・コーラ、サントリーに次ぐ「第三極」勢力が形成されそうな雲行きなのだ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 泉 秀一)
年明け間もない1月15日、飲料業界の将来を大きく左右するであろう連合が実現した。
業界5位のキリンビバレッジと6位のダイドードリンコが、自動販売機事業において提携したのだ。来年4月から、キリン「午後の紅茶」とダイドー「ダイドーブレンド」を相互供給する予定だ。
飲料メーカーが自販機事業で提携することなど、何も珍しいことではない。だが、今回のパートナーの片方がダイドーであったことが、飲料業界では衝撃を持って受け止められている。
ここ10年以上にわたって、業界内ではダイドーは「花嫁にしたい候補ナンバーワン」といわれ続けてきた。ダイドーの強みは何といっても自販機チャネルである。国内3位の28万台を保有し、稼働率の高さで知られる。そんなダイドーには、キリンのみならず、複数の飲料メーカーがアプローチを掛けてきた。
だが、ダイドーが首を縦に振ることはなかった。オーナー経営を堅持し独立独歩の姿勢を貫きたかったのだろう。競合メーカーと組まなければならぬほど、経営難に陥っていたわけでもなかった。
むしろ、近年は自主独立路線を鮮明にしていた。2012年5月には果物入りゼリーを製造するたらみを買収、ロシアやトルコ、マレーシア等の海外に進出するなど、多角化に注力してきた。
そのかたくなな姿勢に、業界内では「ダイドーはどことも組む気がないのでは」(飲料メーカー幹部)と諦めの声が上がっていた。
では、今回なぜダイドーはキリンのラブコールを受けたのか。
発端は、昨年春に勃発したJT(日本たばこ産業)の自販機子会社(ジャパンビバレッジホールディングス)をめぐる買収合戦だ。
約26万台の自販機を保有するジャパンビバレッジに対し、日本コカ・コーラ、アサヒ飲料などあまたの飲料メーカーが買収に名乗りを上げた。そして、実は、キリンやダイドーも入札に参加していた。
この争奪戦に勝利したのは、業界2位のサントリー食品インターナショナルだった。その結果、サントリーは約75万台の自販機を保有することとなり、「日本コカ、サントリーの2強が強過ぎて、3位以下が太刀打ちできない“2強多弱”の構図が鮮明になってしまった」(キリン幹部)のである。
焦ったキリンは昨夏よりダイドーに猛アプローチを掛けた。ダイドーも、ついに単独では生き残れないと判断し、キリンのラブコールに応じたのである。
キリンはダイドーを買収するのではないか──。業界では、たちまちそんな観測が広がった。