ただの「きれいごと」で終わらせないために
随分と前のことですが、ANA(全日本空輸株式会社/本社 東京都)が経営再建に取り組むことになった当時、代表取締役社長だった大橋洋治さんは、クレドをつくって社員に配布しただけでなく、1年ものあいだ、毎日のように現場を回り、社員に直接語りかけ続けたといいます。
「我が社はこれからどうなっていくべきか」「何のために航空会社を続けるのか」―それを社員に直接伝えなければ再建できないと考え、トップリーダーとしての時間の多くをそれに使ったのです。
当然のことながら、ビジョンに対して最も強い「思い入れ」を持てるのは、リーダー自身です。だからこそ、本人が自分の声を使って直接伝えようとしない限り、メンバーにはなかなか伝わりません。
メンバーからすれば、「お客様を大切にしよう」とか「顧客第一主義」などという言葉は、どうしても「どこかで聞いたようなきれいごと」です。その意図や内実まではなかなか理解してもらえません。
私がインタビューした会社のリーダーたちは、「普通に伝えただけでは、まずわかってもらえない」と思っているからこそ、「伝え方」の部分でかなり試行錯誤していました。
ビジョンを表す言葉にしっかりとした「奥行き」を与えられるのは、リーダーだけです。
ちょっとした紙を配ったり、ミーティングで一度話したぐらいでは、リーダーの思いはまず理解されないと思ったほうがいいでしょう。
(第14回へつづく・2月26日公開予定)