先日、甲子園球場へ阪神VSヤクルト戦の観戦へ行った。最上階の電光掲示板の高さに設けられた10人用VIP特別席である。室内用の大画面モニターもあり、ビールで杯を交わすのだが、モニター画面の選手がヒットを打つのを見て外のグランドへ目をやると、すでに玉は返球されている。

「Mさん、テレビと少しずれてるね」と聞く私に

「3秒ずれてるよ」と。

 鉄人・金本も40歳を過ぎてもよくがんばっているなという話から、われわれ中年の体の話になった。

「1ヵ月前から首が回らなくて、右手がしびれて今日も、A先生の外来で頭の牽引をしてもらった」と私。

「僕も手がしびれてゴルフ壊れちゃった」とMさん。

 外科医が一番やられるのが首と腰だが、Mさんの話を聞いて外科医だけでなくパソコンをよく使う経営者の方々も外科医と同じような悩みがあることに気づかされた。

 最先端手術のデビュー当時、Sセンター手術室での話。

「柴田先生、頭、突っ込んでいるよ」と手術中、私の耳元でI外科部長が声をかけてくれる。「はい」

 とうなずきながら左肘を内に寄せ、頭を持ち上げた。肝胆膵外科の手術では大きくお腹を開き、ガンを含む周辺臓器を一塊で摘出する拡大根治手術を行なうのだが、その大手術ができる病院は限られていて、市民病院などから見学者がわれわれ術者の後ろから顔をのぞかせている。

 患者さんのお腹を中心に4人の外科医が立ち手術をするのだが、血管周囲に電気メスやはさみを走らすと、より繊細に慎重にと思うあまりについつい頭が術野に入って、突っ込んだ状態になってしまう。術者と助手が頭を突っ込むと開腹されたお腹の上で、頭がぶつかってしまうこともある。半日から12時間程度かかる手術もあるのだが、通常、ガンの切除までは一気に進め、再建術という、切離された胆管や腸管などの臓器を食事ができるようにつなぐ後半戦手術となる。前半から後半につながる1~2分の合間が唯一、一息つける瞬間である。

「今日の手術は肝臓外科医の登竜門だから、しっかりと」と手術前の指導医S先生。「はい」と気合を入れる私を研修医のN先生は見つめている。Sセンターの肝臓外科のスタッフになってわずか3ヵ月で、当時もっとも難しいとされた執刀である。手術前日、レントゲン写真を入念にチェックし、頭に叩き込んだ手術の流れは睡眠中にも幾度となく出てくる。