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齋藤ウィリアム浩幸 日本の欠落、日本の勝機

日本のビジネスパーソンたちへ
「サイバー3」から読み解くニッポン躍進の鍵

齋藤ウィリアム浩幸 [内閣府本府参与]
【第21回】 2016年3月2日
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「サイバー・カイゼン」の概念をもつ

 3つ目のポイントは「サイバー・カイゼン」という概念の大切さです。こんな言葉、聞いたことがないという方がほとんどでしょう。それもそのはず。「サイバー・カイゼン」は、今回のカンファレンスから生まれた言葉だからです。

 そもそも「カイゼン」(あえてカタカナ表記する経営手法)は、トヨタなど日本企業の得意な方法として世界に知られています。まさに日本の躍進を支えてきた考え方ともいえるでしょう。一方で、日本企業には「稟議に手間ばかりがかかるお役所体質」という欠点があることも指摘されています。何かのトラブルを防ぐためのマニュアルを作成するにも、多くの会議を重ね、数人への稟議を通してようやくプリントアウトして配布されます。

 ところが、サイバーセキュリティの変化のスピードは速く、対策マニュアルはプリントアウトした瞬間に古くなってしまうのです。情報共有の仕組みを工夫して、サイバーアタックへの対策は常にアップデートしていく意識が大切です。風通しよく、変化のスピードに対応していくための方法論として今回のカンファレンスを通じて生まれたのが「サイバー・カイゼン」という言葉なのです。

 サイバーセキュリティを進化させるためには、技術者をはじめ多様な専門家の力が必要です。サイバー3には、免疫学を専門とする生物学者や、人権問題の専門家、内部告発問題に強い弁護士などにも参加していただきました。どんなに優れた専門家でも、一人だけの視野ではサイバーセキュリティ全体はカバーできません。でも、たとえば一人の視野が20度として、18人が集まれば360度をカバーすることができます。そうした意味で「サイバー・カイゼン」には、さまざまな組織の垣根を越えた、オープンでフラットなコミュニケーションが大切であることがわかります。

 サイバー3の報告書では、サイバーセキュリティの進展で日本が果たすべき役割についても言及されています。

 「日本は世界トップレベルを誇るテクノロジー領域(自動車の自動走行や医療技術など)においてサイバークライムが発生する可能性を認識している。2015年1月には日本はサイバーセキュリティ基本法が成立し、2015年9月にはサイバーセキュリティ戦略を決定した。しかし、2015年6月に発生した100万人以上の日本国民の個人情報の漏えいへの対応が遅れたことを見ても、世界中の政府機関がこれまでにないサイバースペースの脅威に迅速に対応できないことがわかる。オリンピックを控えた日本は、有効なサイバーセキュリティ政策の実施にあたって世界の規範となるチャンスがある」

 東京オリンピックという世界が注目するイベントを控え、日本は大きなチャンスを迎えているともいえるでしょう。

 日本には、IoTを進めるための技術力があります。IoTは高齢化にまつわるさまざまな問題の解決にも重要な方法とされていますが、日本はまた高齢化先進国でもある。「サイバー・カイゼン」という考え方を発信し、国際的なオーピンコミュニケーションを提言する国として、日本はまさに最適といえるのではないでしょうか。

 高い技術力があるはずなのに、ICTが弱点になってしまっていた日本。ここで私が挙げたポイントは、まさに日本のそうした現状を打破するために必要なことでもあります。今、世界のIoT化を「警鐘」として捉え、真摯にサイバーセキュリティに向き合うことが、日本が再び世界の中で躍進するための重要な鍵となるに違いありません。

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齋藤ウィリアム浩幸
[内閣府本府参与]

さいとう・ウィリアム・ひろゆき
1971年ロサンゼルス生まれの日系二世。16歳でカリフォルニア大学リバーサイド校に合格。同大学ロサンゼルス校(UCLA)卒業。高校時代に起業し、指紋認証など生体認証暗号システムの開発で成功。2004年に会社をマイクロソフトに売却してからは日本に拠点を移し、ベンチャー支援のインテカーを設立。有望なスタートアップ企業を育成している。12年には、総理大臣直属の国家戦略会議で委員を拝命し、国会事故調査委員会では最高技術責任者を務めた。また13年12月より内閣府本府参与に任命されている。世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2011」選出。2015年6月より、パロアルトネットワークス合同会社副会長に就任。著書に『ザ・チーム』(日経BP社)、『その考え方は、「世界標準」ですか?』(大和書房)。


齋藤ウィリアム浩幸 日本の欠落、日本の勝機

歴史的に、世界に挑むチャレンジ精神は本来、日本人が持っていた気質。しかし今の時代、日本のお家芸“ものづくり”だけでは新興国に負けるのは火を見るよりも明らかだ。成長へと反転攻勢に転じるために必要なものは何か――。それは革新的なイノベーションを起こすための「世界標準の思考」に他ならない。気鋭の起業家であり、技術者である筆者が、日本が再び世界をリードしていく道はなにかを説く。

「齋藤ウィリアム浩幸 日本の欠落、日本の勝機」

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