医学の「常識」も移り変わる
ケトン体を巡る議論の進展

稲島 もう1つ、糖質制限を巡る議論で良く出ていたのが「ケトン体」です。3大栄養素と呼ばれるのは「タンパク質」「脂質」「糖質」。これらがエネルギーに変わります。一番、簡単にエネルギーにできるのが糖質。その糖質を制限すると、条件によりますが次に消費されるのは脂質なんです。脂質が燃やされて、エネルギーに変わるんですね。だから、糖質制限はダイエットに向いていると言われます。そして、脂質が分解された際に出るのが「ケトン体」と呼ばれる物質です。

 このケトン体はかつて、「身体に悪い」と考えられていましたが、その後「別にさほど悪くもない」、さらに後年、「身体に良い」と言われれるようになりました。

編集部 悪いと言われたものが、実は良かっただなんて。医学を頭から信じるのも、なんか怖いような…。

稲島 そうですね。でも、「○○健康法」なんて、何の論拠もないものがもてはやされるのは、もっと怖いと思いませんか?たとえば、体内でケトン体に変換されるココナッツオイルを飲んで痩せる、というようなダイエット法も流行っていましたが、ココナッツオイルを飲んで痩せた、ということを証明した臨床データはほとんどないんです。

編集部 確かに。医者は何か仮説があれば、大人数の被験者を募って、しっかり検証して結論を出すという姿勢はありますものね。いずれにしても、どんな情報もただ鵜呑みにするのは良くないですね。

稲島 話を戻すと、糖質制限が昔から体重減少に役立つことは、臨床的に分かっていたんです。そしてケトン体悪者説が否定されたことで、晴れて理論的にも身体に良いという裏付けができた。そうして糖質制限は市民権を得て行ったのです。

編集部 ということは、やりすぎない限りにおいては、糖質制限は体重も減るし、身体にも良いダイエット方法だという考え方が、やっぱり正しいんですね。

稲島 フェアな視点を持つ医者たちは、そのように結論付けていると思います。だいたい、何だってやりすぎ、摂りすぎはダメなんです。水だって、飲みすぎたら人間は死んでしまうんですよ。

編集部 え?

稲島 といっても1日に20リットルとかです。腎臓の濾過機能を超えてナトリウム濃度が下がる「水中毒」と呼ばれるものです。ちょっと水を飲みすぎたかなという量では起こりませんので、心臓や腎臓に問題なければ心配いりません。脅かしてすいません。

編集部 でも、確かに水を大量に飲むと死ぬ、ということが起こりうるんですね。ウソみたいな話ですね…。