リーマンショック以降行なわれていた企業の雇用調整が一巡し、ようやく有効求人倍率も改善し始めた。しかし、正社員の数は依然として減少し続けており、正社員と非正規社員の格差は広がる一方だ。労働市場の「二極化」は、このまま解消されないどころか、より深刻化してしまうのだろうか。慶應義塾大学の樋口美雄教授に、あるべき労働市場の姿と、個人が求められる働き方について聞いた(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)
高度成長期の社会では
問題視されなかった「賃金格差」
――正社員と非正規社員の二極化が進み、格差問題がクローズアップされている。そもそもこの2つの雇用形態が生まれた社会的な背景を教えて欲しい。
photo by Toshiaki Usami
戦前の日本では、企業が社員の能力開発を行なっても定着率が低いために、技能を身に付けた労働者を育てられないといった問題があった。そこで何とか労働者の定着率を高めようと処遇制度等においていろいろな工夫が凝らされ、また戦時中の転職禁止令などを通じ、徐々に定着率は高まっていった。そして戦後の高度成長期のプロセスのなかで、長期雇用慣行は徐々に日本社会に根付いていった。
そこでは「終身雇用」と「年功序列賃金」によって、1つの企業に長く勤め続けることは社員にとっても得になるし、企業にとっても若い社員が多い分、人件費を抑制することになり、成長が続く限り、人件費の固定費化は問題にならなかった。当時、就職して間もないころは期間工であっても、一生懸命働き、技能を身につければ正社員に登用される道が開かれていた。
一方、非正規労働は、第三次産業が成長するなかで拡大していった。当時の非正規雇用は長時間働くことのできない主婦パートが中心だった。会社は彼女たちに正社員の仕事を補助する役割を求め、家庭においても主たる稼ぎ手である夫の所得の不足部分を補うことを目的に働いた。そのため、正社員との賃金格差は会社、家庭、ひいては社会において、あまり問題視されてこなかった。
非正規の2割弱が世帯主に
雇用形態の“固定化”が問題を深刻化
――では、「主婦パート」の形態が中心だった非正規労働が、現在のように増加し始めたのはなぜか。