ビジネスにおいて、世界の情勢をリアルタイムで知ることがますます重要になっていることは改めて述べるまでもありません。インターネットの普及で、世界の色々なニュースが一瞬でスマホに飛び込んできます。金融市場はもとより、販売も製造も世界中で行っている企業が多い今日この頃です。
その時々の売れ筋の商品は何か、どの国で部品を購入するのが最適か、などに即時に応えなければならない企業にとって、世界で今、何が起こっているのかをいかに正確に知るかが死活を分けるときさえあります。短期的な情報だけでなく、中長期のトレンドを探る上でも、多様な文化や制度の下にある人々が今何を話題にしているのか、楽しみや悩みは何なのかを知ることも、きっと企業経営に役立つはずです。
しかし、私たち日本人が通常の日本語環境の世界で暮らしていると、実は世界の実相からは「ずれ」が生じる場合が多々あります。この「ずれ」に我々が気づかなければ、企業経営でさえ大きな過ちに陥るかもしれません。
日本語への翻訳で生まれる
日本と世界の「時間格差」
まず、世界との時間の「ずれ」についてです。通信社などでは、たくさんの翻訳者やマルチリンガル記者を抱えて、一瞬のうちに、世界のニュースを日本語で配信します。しかし、多くの人が使う英語から日本語になるのには、たとえ数十分、あるいは数分だとしても「翻訳する」時間がかかります。分析的な記事や複雑な出来事だと、もっと時間差があります。瞬時を争うビジネスマン、ビジネスウーマンの世界では、英語オリジナルからすぐに情報を得るべきでしょう。
それでもニュースであれば、せいぜい数時間の遅れだと言えるかもしれませんが、世界で話題となった本の日本語への翻訳には随分時間がかかっています。たとえば、日本では2015年にブームになった、トム・ピケティの『21世紀の資本』は、もともと2年前の2013年にフランス語で出版されました。2014年3月に英語版が発売された時点で、すでに世界各所で大論争を生んだのです。2014年12月の日本語版発売時には、世界の議論はかなり収束していた気配もありました。
同書はそこから1年を経て、日本経済新聞社の2015年末の「経済図書ベスト10」の1つに選ばれたのですが、選者の中には「2014年のヒット作と受け止めている」という声もありました。