やりたいことが利益につながるか。
組織が大きくなっても想いはつながるか

リーダーとしての危機感、どう伝える?藤沢久美(ふじさわ・くみ)
シンクタンク・ソフィアバンク代表
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。そのほか、静岡銀行、豊田通商などの企業の社外取締役、文部科学省参与、各種省庁審議会の委員などを務める。
2007年、ダボス会議(世界経済フォーラム主宰)「ヤング・グローバル・リーダー」、翌年には「グローバル・アジェンダ・カウンシル」メンバーに選出され、世界の首脳・経営者とも交流する機会を得ている。
テレビ番組「21世紀ビジネス塾」(NHK教育)キャスターを経験後、ネットラジオ「藤沢久美の社長Talk」パーソナリティとして、15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。大手からベンチャーまで、成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(実業之日本社)、『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』(ダイヤモンド社)など多数。

【藤沢】やりたいことがあって、社会起業家を目指している人も多いと思いますが、社会問題を感じてこれを解決したいから米山さんみたいに会社にして解決していきたいと思ったときに、注意すべきことはありますか? 落とし穴とか間違いがちなこと。

【米山】売上・利益を生み出せるか、ですね。

当社の場合は、アルバイトの戦力化を強化することで売上を安定させました。人のモチベーションによって店の売上は1割、多くて2割変わってきます。そのように結果的に数字を残すことができれば、単に社会貢献だけでなく、会社が成り立っていきます。想いは大切ですが、それだけではなく、想いと数字がリンクしていくかどうかが重要だと思います。

当社が、コストをかけてまで1年9ヵ月のアルバイトに対する教育投資を充実させているのも、その成果がしっかり数字に表れているからこそ成立するのです。

【藤沢】ビジョン型の経営では、社長の言霊(ことだま)がとても大事だと思っているのですが、米山さんの言霊から副社長がアルバイトの研修を企画されたり、ほかの方からも社長的な言霊が発せられたりすることで、現在の規模になっているように感じました。

このビジョン型の経営でどこまで大きくなれるのか、私はすごく興味があります。1万人とか2万人企業になっても、想いを共有できる組織はつくれるものでしょうか。

【米山】起業、上場、と歩んできたこれまでのすべての景色が、僕にとっては初めて見る景色でした。ですから、社員1万人の景色も、僕にとって未だ見ぬ景色です。自分も成長していかなければなりませんし、1万人になったとき、リーダーは僕なのか、副社長なのか、外部から連れてくるべきなのか、キャスティングも考えなければならないと思います。

ECや海外展開ということについても仮説を立て、臆病さも持ちながら、リカバリーが効く程度の投資もしていきます。

ちょっと飽きてきたから独立しようかな、と考えている人間が、独立するより当社にいたほうがいろいろできて面白そうだと思えるようにしたいですね。とくに外食産業では、会社がつまらなくなるとどんどん人材が流出し、せっかく築いてきたものが分散してしまう。分散し過ぎると、新しい価値観が生まれにくくなると思っています。

リーダーとしての危機感、どう伝える?

【藤沢】しっかりみんなが成長して、エー・ピーファミリーとしてどんどんみんなが大きくなっていくと。

【米山】当社でも、お弁当の分野を子会社化して、去年まで部長だった人間が社長になったりと、経営者が増えていくので、会社を大きくすると同時に経営陣ももっと育てていきたい。

たとえば地鶏を仕入れても居酒屋だけではムネ肉が余ってしまうけれど、弁当事業あらムネ肉がうまく使えるなど、多角化することで事業の効率性が高まる。さらに生産者にとっては、ムネ肉は売れないという理由で鶏の仕入れ値を抑えられていたのが、ムネ肉が売れれば値段を上げることができて所得向上につながる。複数の経営者が成長して、後ろの部分でつながっていけば、そういった相乗効果が生まれ、理想の形に近づくと思っています。